鬼と華
□花兎遊戯 第三幕
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春雨の母艦、別の場所では、晋助と神威が遭遇していた。
神威は提督から、鬼兵隊を討つようにと偽の命令を受けていた。第七師団艦隊は、副団長の阿伏兎を筆頭に鬼兵隊の船を追って出航。総督の晋助に自ら手を下そうと、神威自身は船に残った。
獲物を前にして、彼の目は爛々と輝いていた。地球の侍、殺し合いの相手にはうってつけだと思いながら、爽やかな笑顔で宣言する。
「単刀直入に言うけど、死んでもらうよ」
「初めて逢った時から、顔にそう書いてあったぜ」
「ハハ、バレてた?」
神威はニッと不敵に笑うと、じりじりと晋助との間合いを詰め始めた。
「あと、アンタの女。アレは俺がちょっと借りる予定だから」
「借りるだと?」
「地球の女に興味があってね。あの清楚な顔が苦悶に歪む所が見たくなってさ」
晋助は鬼のような形相で神威を睨みつけた。
「女はモノじゃねえ。ふざけるのも大概にしろ」
「ふざけてなんかいないよ。ただ宇宙にいるだけじゃあ、退屈で退屈で死にそうなんだ」
神威は兎のようにぴょんぴょんと飛び跳ねながら足慣らしをして、ぐっと拳を握った。
「喧嘩と女なんて、最高の退屈しのぎだよね。アンタには感謝するよ!」
そう言って、晋助に飛びかかろうとした時だった。神威の背後に、勾狼団長が大勢の部下を引き連れて現れた。
喧嘩の直前に水を差され、神威は不愉快そうに振り返る。
「勾狼団長、サシの勝負の邪魔をするなんて、無粋な真似は……アレ?」
振り返った彼は目を丸くした。背中に数本、矢が突き刺さっており、足元にぼたぼたと血が滴っていた。
撃たれたのは強力な毒矢である。夜兎と言えど毒にはかなうまいと、勾狼は勝ち誇ったように笑った。
「死ぬのはお前だ、神威」
第七師団を排除する計画は、手筈通りに進んでいるかのように見えた。その陰で、鬼兵隊に謀反の疑いがあるとして薫の身柄を拘束したことは、第八師団のみが知るところである。
神威を捕縛したのと同じ頃、第八師団の別動隊が、薫を牢の中に押し込めていた。
彼女が捕らえたことを、晋助はまだ知らない。
(第三幕 完)