SHORT STORYA

□Let me love you!
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晋助は大手の証券会社に勤めていて、共通の友人の紹介で知り合った。
最初の印象は、スーツがよく似合う無口なひと。でも、話した時の声が低くてきれいで、たまに見せる笑顔が優しくて、私はすぐに彼のことが好きになった。そうして私から告白して、付き合い始めて二年目経った頃。もっと一緒にいたいからと説得して、人生初めての同棲に踏み切った。お互いの会社にほど近い2DKのマンションを借りて、家賃をシェアして暮らし始めたのだ。

平日はお互い仕事が忙しくすれ違いばかりだけれど、休日は出来るだけ一緒に過ごしてきた。でも晋助の留学が決まってからというもの、彼は社内試験の準備か何かで、休みの日も部屋にこもることが多くなった。私は私で退屈を持て余して、女友達と出かけたり、急ぎでもない残務処理のために休日出勤したり、極力家で彼と顔を合わせないようにしていた。


ある晩帰宅すると、ソファーで晋助が待ち伏せしていた。

「お前、最近俺を避けてるだろ」
「別に……」
「決めたか、家のこと。解約すんなら早めに、」
「晋助のばかっ」

私は大声をあげて、彼の言葉を遮った。

「マンションのほかに、もっと大事なことあるでしょ!?」

鞄を床に叩きつけて、自分を落ち着かせるために、ハアーと長く息を吐く。

「ねえ。留学って、何年なの」
「二年」
「晋助は、いいの?二年間も私と離れても」
「離れることにはなるが……お前だって仕事あるし、ついてくるような柄でもねェし、仕方ねェだろ」
「そうじゃなくて!!」

きっと今、私は醜い顔をしている。好きな人に対して怒って声を荒げるなんて、本当はしたくないのに、こみ上げてくる怒りを鎮められない。

「そんな大事なこと、なんで決まる前に相談してくれなかったの!!」
「…………」

晋助は黙って暫く下を向いていたけれど、

「……何も言わねェで決めて、悪かった」

と素直に謝ってから、くしゃりと前髪をに握りつぶすようにして言った。

「決まったのが急だったんだ。留学に内定した奴が急遽辞退したらしくて、ひとつ枠が空いたからどうだって、部長が推薦してくれた。今まで何度か希望を出したんだが、通らなかったから」
「……前から行きたかったの。留学」
「あァ。入社した時から、いつかは行きてェと思ってた。この機会逃したらもう行けねーかもしれない」

彼に夢や目標があるなら、応援したい。でも、離れ離れになるのは嫌だ。彼のいない生活なんて、到底考えられない。

「二年なんて、長いよ……」
「過ぎればあっという間だろ。同棲始めたのも二年前だ。すぐだったじゃねーか」

確かにそうだ。でも、すぐの一言で片づけられないほど色んな出来事があった。楽しい時も、そうでない時もあったが、彼と居て幸せな二年間だった。
それを丸々独りで過ごさなくちゃならないと思うだけで、心がぽっきりと折れてしまいそうだ。胸を張って行ってらっしゃいなんて、とても言えそうにない。


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