恋暦
□第七章 七夕流
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夏の盛りを迎えた。
攘夷志士の戦いは続き、いっそう過酷さを増していた。
小規模の隊を編成して、奇襲工作や待ち伏せなど、天人を攪乱し攻撃する。そんな戦いで一時は敵を滅ぼしても、天人は次から次へとやって来る。
多数の敵の軍勢。それに引き換え攘夷派は、充分な頭数とは言い難い。
度重なる戦で、死者や負傷者が増えていたからである。
そんな中、鬼兵隊の総督高杉晋助は、四つ手に分かれて、天人の大軍に奇襲を行う作戦を考案した。危険は伴うものの、成功すれば、天人の戦力を大幅に削ぐことが出来るのだ。
晋助の説得で、小太郎は渋々、彼の作戦を受け入れた。
「明日は七夕じゃのう!」
作戦決行の日。
目的地まで歩きながら、辰馬が突然呟いた。
「七夕に、月見酒なんぞどうじゃ?薫、おまんもたまには付き合うぜよ!」
「バカか貴様は」
小太郎が冷たくあしらう。
「出陣の時に何を言う。今は、目の前の敵のことだけ考えろ」
「コイツの暢気は、今に始まったことじゃねぇだろ」
銀時が愉しそうに笑う側で、辰馬は、小太郎や晋助にも聴こえる声で言った。
「今回の戦、わしは気が乗らんぜよ。
危ない橋は、渡りとう無い」
彼は、浮かない顔をしていた。
「わしぁ、戦ば好かん」
他の三人は、口をつぐんでいる。
それは戦の度、辰馬が口癖のように漏らす言葉だった。
「戦ば好かん……。仲間が死ぬところは、もうたくさんじゃ」
◇◇◇
分岐点に来たところで、隊が分かれた。
晋助率いる鬼兵隊、銀時、小太郎、辰馬の四隊である。晋助の合図で、彼らは四方から敵に一斉攻撃を仕掛ける作戦だった。
四人は円陣を組むように、向かい合った。
「死ぬなよ」
銀時が言った。
「てめえもな」
晋助が頷き、他のふたりも頷いた。
薫は、四人の姿をじっと見守った。
勇ましく、堂々とした、広い背中だった。
余計な言葉など、無くてもわかる。共に剣をとり、これまで闘ってきた仲間達。互いに信じ合う深い繋がりを、彼らの間に見た気がした。
別れ際、小太郎が薫を呼び止めた。
「薫殿」
「なんでしょう?」
言い残したことがあったのか。
薫は小太郎を見上げたが、彼はふと視線を反らすと、踵を返した。
「いや……何でもない」
そのまま、自らの隊を従えて去っていく。
「行くぞ、薫」
晋助の声がして、薫は慌てて、鬼兵隊と共に陣地へ向かった。
何かいいたげな小太郎の瞳が気になったが、敢えて考えまいとする。
また、仲間と共に、無事に帰ろうと。
彼はそう、言いたかったに違いない。
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