隣人と二度、恋をする

□chapter6.The Summer TriangleB
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高杉さんは私の手を引いて、電気がついたままの納屋へと引っ張って行った。てっきり、真っ暗な場所を歩くのが怖いだろうと気遣って、一緒に電気を消しに行ってくれるのかと思ったけれど、彼は黙って納屋の影へと私を連れ込んだ。

納屋の裏手はちょうど土手になっていて、母屋からも、隣の平次おじさんの家からも死角になっている。小窓から漏れる明かりをたよりに、彼は私の肩をトタンの壁に押し付けると、突然キスをした。
つい先日、銀時と同じようにしたことを思い出して、ぞわりと背筋が凍った。私はありったけの力を込めて、彼の胸を押し返した。

「っ、や、やめて!」
「あの日、銀時とやったのか」

高杉さんが怖い声で尋ねた。あの日というのは、彼らが喧嘩をした晩のことだろう。暗がりの中で光る双眸が、獲物を狙う猛禽類のようだった。

「答えろ。やったのか?」

彼は再び訊ねた。私が黙ったまま、小さく首を横に振ると、彼はふっと笑いを漏らした。

「じゃあ、これからは俺がしてやるよ。銀時は昔から、女には積極的なタイプじゃねェ。このまま銀時(アイツ)といたって、ずっとみじめな思いをするだけだぜ」
「あなたとは、もうしない!」

自分で思ったよりも、語気の強い大声が出た。真夜中の屋外であることを思い出し、私は呼吸を落ち着かせて、きゅっと口を結んで高杉さんを見上げた。

「私……これからも、銀時と一緒にいたいと思ってる。私達が“普通の”恋人同士でいられるように、今まで出来なかったことを、ひとつひとつ、ゆっくりでもいいから、乗り越えていきたい……」

自分でも、言葉に迷いが滲んでいくのが分かった。最後の方は、遠い星の光のように頼りなく、自信のなさそうに微かに震えていた。

「でも、まだ今は、どう接したらいいか分からないの……。そんな時に、あなたとなんて、できる訳ないじゃない……!」

あの日、ブドウ畑で、泥だらけになって殴り合うふたりを見た時、何が起きているのか理解出来なかった。
喧嘩の原因が私にあると知って、悔いても悔いても、取り返せないものがあるのだと悟った。一時の誘惑と迷いで、銀時と築き上げてきた関係が―――たとえ、それがうわべのものだったとしても、十年近い私達の月日が、一瞬にして瓦解したのだ。

私が高杉さんと会うより早く、彼が銀時の幼馴染だと分かっていれば、私達は友人になれたかもしれない。一度始まりに戻って、時間を巻き戻すことが出来たならどんなにいいだろう。高杉さんと初めて言葉を交わしたことも、彼の部屋で、ホテルで、抱き合って微笑みあったことも、全部全部、最初からなかったことにして……

「もう……あなたとのことは、忘れ、」
「そう簡単に忘れられるかよ」

高杉さんは私が言い終わるのを待たずに、落ち着きはらった口調で言った。

「覚えてるか?お前が俺んちに置いてった、皿があるだろう」

彼の部屋にパンを届けた時の、青い鳥の絵が描かれたお皿のことだ。

「あれは、ずっと棚にしまってある。見る度にお前のことを思い出すよ。それを狙ってわざと置いてったんなら、とんでもねェ女に引っかかっちまったと思うよ」
「ち、違います!そんなことをしたかった訳じゃありません!」
「それだけじゃねェよ。俺の部屋で、お前が初めていって……そのあとのお前ン中の感覚が忘れられねェ。処女みてえにきっついくせして、奥の方は溶けそうなくらいに熱かった」
「……!」

自分の性器のことを語られるのは、恥ずかしいなんて程度のものではなかった。唇を噛んで俯いていると、彼は私の耳の側に頬を寄せ、睦言を並べるような声で囁いた。

「“ありがとう”、なんて言って、勝手に終わりにすんなよ」

胸がどきりと音をたてて跳ね上がった。吐息がかかった耳を手で抑え、私は彼を見上げた。

「お前とは肌が合う。体の相性がどうのなんざァ、雑誌の記事には書いたことはあるが、今まで信じちゃいなかった。……なァ、お前だって本当は、忘れたいなんて思ってねェんだろ……?」

言いながら、彼の手がパジャマの下にするりと滑り込んだ。クマの模様を、銀時が可愛いと言ったパジャマだ。焦って彼の手を押さえようとしたけれど、冷たい手のひらがお腹をゆっくりと這い上がってきた瞬間に、かくんと膝の力が抜けてしまった。
記憶を司るのは、脳だけじゃないのだと知る。彼の低めの体温を感じようと、肌に刻まれた感覚が反応して、一斉に細胞が共鳴しあうようだった。その時には、彼の手は左の乳房を包み込んでいた。

高杉さんの手は、男の人にしては小さめでしなやかで、私の小さい乳房がちょうど手のひらに収まるくらいだった。銀時の手のひらは大きくて、彼の手の中にある胸は、所在なさげにすぼんでいた。
ふたりの手のひらの大きさを比べている間にも、彼の指はきゅっと乳首を摘まんで、紙縒りを織るように抓りあげた。

「ひっ…!」

これまでの何度かのセックスで、私がどうされれば悦ぶのか、彼は熟知している。片手で硬くしこった乳首を弾かれながら、もう片方の手がショーツの中に突っ込まれた。じりじりと奥へと進んでから、膣口の回りを指先で円を描くように撫でられた。そこは既に湿って、さらに分泌を促すようにわざと焦らして触れてくる。それを何度も繰り返して、滑りがよくなった頃を見計らって、彼の指が侵入してきた。

「……はあっ」

生暖かいものが、あそこからじゅくっと溢れるのが気配で分かった。高杉さんは悩ましげな吐息をついて、耳もとで囁いた。

「こんなに泣いてるじゃねェか」
「っあう、あ、……あぁ!」

指は一本……か、二本、私の中を搔き回しながら探索している。出入りする度に信じられないほど卑猥な音がして、溢れたものが高杉さんの指を汚していく。

銀時とした時は罪悪感と緊張で頭がいっぱいで、どこに触っても何をされても、そこは濡れないまま何の反応もしなかった。抵抗はあっただろうに、銀時は真摯に私と向き合って、私の求めに応じようとしてくれたのに、きっと不感症だと思われたろう。それに引き換え、今はどうだ。お腹の奥が、切なくて切なくてたまらなくなっている。
恋人がいるのに、もう関係は露見しているのに、いけないことだと分かっているのに、こんな淫らな行為に没頭するなんて。ただひとつ、確信を持って言えるのは、セックスから始まった高杉さんとの関係では、私は欲求を包み隠すことなく、ありのままの自分を曝け出すことができるということだった。


やがて胸を弄んでいた手が、脇腹をつたい、お臍の下に潜り込んだ。そして繁みの中をゆっくりとかき分けて、陰核に触れた。

「ア!」
「声を、出すな」

と、彼は言った。中にとどめた指をゆっくりと動かしながら、片方の手で膨らみ始めた緋色の粒を、羽根が撫でるようなタッチで転がしてゆく。今は夜更けで、それも屋外だ。自然と声が出そうになるのを、歯を食い縛って押し止めた。
彼は再び、命令するような威圧的な声で言った。

「声が出そうになっても、我慢しろ。腹の奥に押し込めろ。お前が一番感じる場所に、とどめておけ。そこで、泣け。叫べ」

逃げ場のない快感が体中をかけめぐって、何度も何度も弾け飛ぶ。彼の中指と人差し指は、膣の中の一番気持ちいいところを、一定の強さでくいくいと押してきた。それを繰り返すうちに、尿意に近いものが徐々に迫ってくる。そもそもトイレに行きたくて目が覚めたのだ。そのうちに膝ががくがくと震えて、太腿の内側が痙攣を始めた。いつしか、尿意は止められないほど強烈なものに変わっていた。

「だめ、も…だめ、お願い、とめて」

声を出さずにはいられなかった。このままでは、高杉さんの前でとんでもない痴態を晒してしまう。私は涙声で、必死になって懇願した。

「も、ゆるして……、もう、出ちゃう……!」
「汚ねェモンでもねェさ。見ててやるよ」

彼はそう言うと、やめるどころか、指を奥に留めたまま小刻みに揺らし始めた。膣の少し膨らんだところを的確に擦られて、我慢も抑止も出来なくなる。肩を震わせ、喉からか細い悲鳴が立ち上った。

「いやっ、いやあ、あっ、ああ、あ、――」



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