隣人と二度、恋をする

□chapter16.Just stay with meB
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官舎に備え付けの古いエアコンは、ぶおーという低い音とともに乾いた風を吹き出す。寝る時は煩く聴こえるその音が、今は全く気にならなかった。脚の間から響くくちゅくちゅといういやらしい音が、エアコンの機械音よりもずっと生々しく響いているからだ。
室温は決して高くなくむしろ涼しい位なのに、銀時も私も大量に汗をかいていた。汗の匂いに混じって、甘酸っぱい独特の匂いが立ち上る。彼の手をどれだけ濡らしてしまったのかを想像して、羞恥のせいでますます体温が上昇する。

やがて銀色のふわふわとした髪が、胸から肋骨へ、脇腹からお臍へと、肌を擽りながら移動していった。意識は否が応でも下半身に集中する。私の肌を覆い隠すのはショーツ一枚だけになっている。その中がどうなんているかなんてとっくに知られているのに、直に見られることに抵抗感が芽生えた。

「銀時」

私は片手で彼の肩を掴んだ。

「私、汗かいてる……」

うん、とだけ言いながら、彼は大きな肩を膝と膝の間に滑り込ませた。腿の内側をそっと掴み脚を開かせてから、銀色の髪がしたの方へ沈んでゆく。
ものすごく恥ずかしいけれど、嫌ではなかった。してくれるのなら、してほしいと思った。

「あっ……!」

ショーツ越しに、ざらりと舌を這わせる感覚がした。クロッチの上から何往復か唇を這わせてから、彼は手早くショーツを脱がせた。彼の唇が直接私に触れた瞬間、あまりの熱さに全身が竦みあがる思いがした。

「……ここから溢れてる」

水が張った亀裂に、彼は躊躇いがちに舌をあてがった。ぎこちなく慎重に、探り探りに這わせるのが余計に感じた。か細い悲鳴をあげながら、力なく左右に頭を振る。ぞくぞくと背筋が震えて、無意識のうちに腰を突き上げていた。

「気持ちいい?」
「うん……!」

ぎゅっとシーツを握りしめて目を瞑る。一番恥ずかしいところを目の前に曝け出して、全てを彼に委ねているようだ。いや、実際に今の私は、何もかもが彼の意のままだ。

「このまま舐めてたら、どうなっちまうんだろうな」

喋る時の吐息にすら感じてしまう。彼が何かする度に、それがどんな些細な仕草や動作でも、敏感な場所はすぐに反応してぴくんと体が跳ねるのだ。
暫くすると、彼は私のお腹の辺りに顔を持ってきて私を覗き込んだ。

「他にどうすればいい?」

肘をついて顔を上げると、彼の緋色の瞳が目に飛び込んできて視線が絡み合った。これから狩りにでも行くような、攻撃的な雄の目をしていた。射るような強い視線に、私は正直に答えを示した。上体を起こして、大陰唇に指を添え襞の間を彼に見せた。自分の陰核がどうなってるか、ちゃんと見たのは初めてだった。独りで自慰をする時や、セックスで昇り詰める時、快楽を与えてくれる小さな器官。それは好きな人を前にして、サーモンピンクの薄皮にひっそりと包まれて、触れてもらうのを待っていた。

「ここ、触ってほしい……」

包皮のうえから指先でつんとと触れた。自分で触れても、思った以上の気持ちよさに腰が震える。中の刺激も気持ちいいけれど、神経が集中したこの小さな場所はあらゆる枷や柵を一瞬で取り払ってくれる。彼の指が迷わず一直線にそこに伸びた。

「こんな風に?」

彼は優しくしたつもりだろうが、ざらざらした人差し指の腹が与える刺激は強すぎた。して欲しい事を、私は率直に伝えた。

「もっと弱くして。つよいと痛いの、そっと触って……」
「分かった」

聞き分けのいい子どものように、銀時は素直に返事をした。指先が微妙な力加減を図りながら、粒のうえで円を描き始める。溢れるものが潤滑液の役目をして、どこに触れても滑りが良かった。彼はクルクルと優しく転がしながら私の反応を窺っていた。

「はあ……!」

湿った息を吐いて背中を弓なりに仰け反らせる。余計な思考を頭のなかから排除して、そこの感覚だけに集中した。
徐々に息が上がり、絶え間なく押し寄せる快感に思考が持っていかれそうになる。腿の内側が断続的に震えるのに気付いて、彼が言った。

「いく時、いくって言ってみて」
「や、やだ、そんなの……」
「何でだよ。お前がいくとこ、俺見たことねェもん」
「だって、恥ずかしいもの……」
「ふぅん」

彼は再び脚の間に顔を埋めた。陰核への刺激は、指の先ではなく舌の先に変わった。強すぎると痛いのは指でされても舌でされても同じだ。彼は舌に唾液をたっぷりと絡ませて、舐めるとまでいかない、掠めるくらいの触れ方でそっと包み込んだ。

絶妙な感覚に腰がはね上がる。ああ、とあられもない悲鳴をあげて、太腿で銀時の頭をぎゅっと挟んでしまった。彼はそれから暫くの間、陰核を散々なぶってから、舌を尖らせて中へ押し込んで無遠慮に掻き回した。

不意打ちに私は唸って身体を大きく捩った。舌で頻りに内側を刺激され続けて、奥の方がむずむずと疼いておかしくなりそうだ。あそこはもう、唾液と愛液が混ざりあって、下生えが束に固まるくらいに濡れそぼっている。

「も……やめて、銀時……!」

そう訴えて身体を退こうとしても、彼はがっしりと腰を掴んで離してはくれなかった。やっとのことで解放されたのは、何度目かの制止のあとだった。私は肩で息をしながら、恨めしい思いで彼を睨んだ。

「あなたって意地悪なのね」
「そう?」

目許が笑っていた。悪戯好きの子どものようだった。

「やめてって言われるとやめたくなくなるんだよな。お前の“やめて”は、もっとして、に聴こえるよ」

口ではやめてと言っていても、心の底のさらに底の本心では、あのまま続けてほしかったのかもしれない。私は顔を真っ赤にして、ばか、と呟いた。
彼があんなに積極的に攻める人だなんて、思ってもみなかった。もしかしたら頑張り過ぎているじゃないかと不安になり、私は訊き方を選んで、遠慮がちに尋ねた。

「銀時……無理してない?私ばっかり、こんなにしてもらわなくても……」
「だって、お前が感じてるとこ、すっげえかわいいんだもん。もっとしてやりたくなる」

彼は私を抱き締めるように寝そべって、指をするりと中に潜り込ませた。彼が指を進めたのか私が飲み込んだのか、どちから分からないくらい何の抵抗もなかった。
太い指の関節が上下に動く。内側を刺激されるだけで、そこは歓びに蜜を滴らせる。

「トロトロに濡れてる。感じてると、こんなになるんだな」

膝小僧に置かれた手が徐に太腿の内側を滑り、お臍の下をきゅっと押した。すると突然、今まで感じたことのないような、ふわっとした感覚が体の深淵に噴き上げた。彼はきっと、何の気なしにしたのだろう。けれど私の体は、未知の感覚に過敏に反応して、一際甲高い悲鳴が喉の底から突き上げた。

「そこっ、へん……!!」
「どっちが変なの。中のほう?それとも、ここ?」
「りょ、両方……!」

私は激しく体を捻って身悶えした。膣の中、お腹側に指を少し曲げると、ざらざらとした一番気持ちいいところがある。お臍の下を押されるとなおのこと摩擦が強くなって、ぐんと快感が増す。自分ではどう制御したらいいか分からないくらいで、少し怖い。途切れ途切れに喘ぎながら彼の腕にすがり付く。

銀時の飲み込みは早かった。野生の勘を研ぎ澄ませるように、私の反応を見極めながら、両手を器用に使って刺激を繰り返す。その動作を、彼は一切止めなかった。動きに波をつけたり、拍子を外したりするよりも、同じ速度で同じ刺激を繰り返すことで、性感が垂直に高まることに気付いたようだ。

(だめ、気持ちいい―――――)

隣人のセックスと、全然違う。隣人のしなやかで冷たい指先や、壊れ物を扱うような繊細さと、銀時は対照にある。銀時の手はごつごつしていて、指先が丸くて太くて、とても大きい。そして、熱があるのかと心配するほどに熱い。強引で、情熱を勢いよく放り投げて、ぶつけようとするような荒々しさの裏返しに、慎重過ぎる優しさがあるように思う。
こんな事を比べる愚かな私に、銀時は低い声で言い放った。

「高杉(アイツ)のことなんか、忘れろよ」

ああ、そうかと思った。隈無く丹念に愛撫して、隣人の痕跡を跡形もなく消そうとしているのだ。
銀色の髪が瞼のうえをふわふわと揺れる。彼にしがみついて、一番高いところへと昇り詰める。達する一歩手前に、瞼の裏側が白く光った。いや、白ではない、私を導いたのは、銀色の淡い光。




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