約束 〜 いつか、君に逢いに行く 〜

□第三章 大獄の遺児
2ページ/6ページ


初めての攘夷戦争の戦地で、私達は有名な攘夷志士、桂小太郎たちに出逢った。そして、彼の提案で、彼らが拠点とするアジトに身を寄せることになった。
そこには、西方から来た攘夷志士が多く住んでいた。その中での首領級は、長州や土佐から来た侍、四人だった。

大将格は、狂乱の貴公子の異名をとる、桂小太郎。攘夷志士の間で通り名が付くのも納得するほど、確かに聡明で、志高い立派な人物だ。多数の侍達を率いるのも、成る程と思える。

次に、高杉晋助。若くして、鬼兵隊という義勇軍を従えている。随一の戦術家として名高く、実物は若干小柄だが、その眼は鋭く百戦錬磨の策士を思わせる。

このふたりは長州藩士だが、土佐藩の浪士、坂本辰馬も彼らと肩を並べている。免許皆伝の剣士と聞いているし、腕は確かだと思うが、とにかく陽気でいつも豪快に笑う。私への態度からして、明らかに一番好色だ。

そして、坂田銀時。
彼は、他の三人と行動を共にし、戦では志士を先導する役目のようだが、一番よくわからない。藩士でもなく、商人や農民の出でもないようだ。どこかぼんやりとした顔をしていて、戦う時以外は、死んだ魚のような目をしている。だが、私が安島といい争いをしていた時に、助け船を出してくれた。悪い奴ではない。
敵味方から、白夜叉と畏れられる攘夷志士。普段はその片鱗を見せないこの男が、私は最も気掛かりだった。

彼らがどんな風に戦ってきたか、とても興味があったのだが、先日の会合での安島の一言で、私の期待は脆くも崩れ去った。

(気安く仲間と呼ばないでもらいたい)

穏やかだが気位は高い安島の発言をきっかけに、長州勢と私達水戸藩の間には、完璧に亀裂が出来てしまった。
田舎侍なんて呼ばれたら、誰もいい気はしない。彼らが怒るのは当然で、私達のことを、無礼で高飛車な連中だと思ったろう。

安島の思いも、解らなくはない。
安島や、茅根や鮎沢には、誇りがある。れっきとした武士であることの、揺るぎない自信がある。
勿論、私にもある。旧き祖先から脈々と受け継がれた、誇り高き侍の血が流れているのだ。

ただ、身分や血筋が、人の全てではない。
安島は田舎侍と揶揄したが、私には、桂や銀時をそんな風には思えなかった。彼らの戦う姿は、紛れもない侍。果敢で、死への恐怖など微塵もない、尽忠報國の士。

身分も藩も越えて、彼らは集ったのだ。仕える主君のためではない。己の為、或いは、誰か人の為。

士道とは、己の道。
己の信念。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ