約束 〜 いつか、君に逢いに行く 〜

□第十九章 春の兆し
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銀時の居場所がわかった。
それはまるで、霧に包まれたように、気持ちのもやもやとした部分が晴れた気分だった。

銀時の家で一晩を過ごした時のことは、忘れられない。まだ、銀時は商売を始めたばかりで家財もなく、私達は長椅子の上で抱き合った。
私は身体が固まってしまうのかと思うくらい、死ぬほどに緊張していた。そんな私を、銀時はまるで脆い硝子細工を扱うように、優しく触れてくれた。ひとつひとつの仕草の慈しみや、指先から溢れる優しさと暖かさを感じて止まなかった。
そうして時間をかけて、ようやくひとつになれた時、この人のことが好きだと心から思った。離れていた間の、混沌とした不安や疑問がすべて消えてしまうくらいに、温かい夜だった。


屯所に戻ってから、私は気恥ずかしくて、なかなか自分から銀時のことを話せなかった。けれど、痺れを切らしたのか、安島の方から尋ねてきた。

「坂田さん、元気だったかい?」
「うん、まあ」

曖昧に返事をすると、安島は胸を撫で下ろして、

「ああ……良かった」

と呟いた。そして私に向かって、

「君も、前より元気そうだ」

と微笑んで見せた。深読みした私は、取り繕うように大袈裟に否定した。

「そ、そんなことないわ!私は変わらないわよ?何も!」
「君が気付いてないだけだ。この前までは、君が笑っていても、いつもどこか淋しそうに見えていたんだよ。でも、今は違う」
「…………」

そんな風に見えていたなんて、知らなかった。私自身、淋しさを感じていても、それを表情には表すまいと思っていたのに。

私は、おずおずと安島に尋ねた。

「私、ちゃんと笑えてる?」

安島は大きく頷くと、嬉しそうに笑った。

気分は晴れやかで、足取りが軽かった。本当の自分が戻ってきた、そんな感覚だった。


今まで、いつも何かをしなければ、生きなければと急いでいた私は、銀時に再会して、一度立ち止まることが出来た。
私にとって一番大切なものは何かということが、わかったのだ。


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