七色の家族

□第七章 紙吹雪舞う、かぶき町
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例えばテレビのCMとかコンビニの雑誌とかで、結婚式の様子やモデルの花嫁を見たことはある。幸せに溢れた新郎新婦の笑顔、子供たちの門出に感涙する両親、温かい目で祝福する友人達。感動的なものであることには違いないが、どうしても、どこか嘘臭さを感じてしまう。何だかよく出来すぎていて、美しすぎて、ずっと自分には縁のないものだと思うからだろう。

だからまさか、新八と神楽が結婚式をやると言い始めるなんて思ってみなかったし、なんやかんやで紋付き袴を着ることになるなんて、想像もしなかった。


六月某日、俺は千晶との結婚式で、お登勢のバアさんの旦那が昔着た羽織袴を借りることになった。五つ紋付羽織袴は、男の婚礼儀式の正装だ。黒の羽織に、白足袋と白草履を履く。袖を通してみると、身丈も身幅もいつ採寸したかと思うほど、俺の体型にぴったりだった。

袴を履いて、帯が少し見えるように袴位置を合わせる。両端の紐を、後ろの一文字結びのところに持っていったところで、俺はピタリと手が止まってしまった。

「……アレ?」

紐の回しかたを、ド忘れしてしまった。もたもたしていると、見かねた新八が俺の手から紐をとった。

「貸してください、僕がやりますよ」
「普段袴なんて着ねえから、忘れちまったんだよ」

言い訳がましくそう言うと、新八は何も言わずに笑顔を浮かべた。

新八に手伝ってもらいながら着付けをし、羽織袴姿の自分を鏡で見る。何だか衣装に着られている感じがして、ひどく滑稽だ。
そのまま玄関に向かおうとすると、新八が扇子を片手に追いかけてくる。

「銀さん、扇子忘れてますよ」
「お、おう……」
「緊張してるんですか?」
「ったりめーだよ、こんなこっ恥ずかしい格好してよ……俺の柄じゃねーだろ」
「でも、似合ってますよ。とても」

新八がそう言って、顔いっぱいで笑う。
その時外から、神楽の元気な声が聴こえていた。

「銀ちゃーん!!新八ィー!!」
「あ、千晶さんの仕度もできたみたいですよ!」

新八に急かされて外へ出ると、下から二階を見上げているバアさんと目が合った。バアさんは、紋付き袴姿の俺に一瞬懐かしそうに目を細めたが、すぐにいつものクソババア顔になり、文句をつけてきた。

「遅いよアンタ達!花嫁を待たせる気かい」
「悪ィ悪ィ」

履き慣れない白草履。手摺を掴んで、慎重に階段を降り始めた時だった。真っ白い綿帽子が見えたかと思うと、花嫁衣装に身を包んだ千晶が現れた。

彼女は俺を見上げて、照れ臭そうにはにかんだ。

「…………銀時」

ひとつの汚れもない、純白の白無垢姿。正絹の衣装は陽の光の下で眩しく、俺は千晶から目が離せなくなった。

きれいだった。
他に言葉が出てこないくらい、千晶はきれいだった。


 〜第七章 紙吹雪舞う、かぶき町〜



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