七色の家族

□第五章 愛のしるしを、君へ
1ページ/6ページ


男の人生でそうそう縁のない場所というは、意外と多い。ピンク色に包まれた女物の下着の店、キツい香りの漂う化粧品の店。いくら千晶にせがまれたとしても、絶対に近付きたくない。
あとはやたらカワイイを連発する女が集まる雑貨屋とか、流行に敏感な若者が列をなす食い物屋とか。どれも俺の人生には関係ないものばかりだ。

だが、そんな俺が訪れたのは、銀座の一角。どこからともなくイイ匂いが漂う、豪奢で洗練された空間。人生で生まれて初めて、俺は宝飾店に足を踏み入れたのだ。

「指輪って……こんなに高ェの?」

ディスプレイにへばりついて、値札を見た俺は目玉が飛び出そうになってしまった。その上慣れない空間にいるせいか断続的に尿意が襲ってきて、驚きと緊張と尿意のせいで、嫌な汗まで出てくる。

「銀さん、僕らめっちゃ浮いてますよコレ。場違い過ぎて空気みたいになってますよコレ。店員さん揃って僕らガン無視ですよ」
「一、十、百、千……銀ちゃんコレごっさゼロが多いアル。こんな値札、私見たことないアル」

新八が俺の着流しを引っ張りながら焦り声で言い、神楽は物珍しそうにキラキラした宝石を眺めている。
確かに、身なりのいい男女がすました顔で行き交う中、ガキふたりを連れた俺は浮きまくっていた。場違いにも程がある。

もう出よう、そして便所へ行こう。そう思って踵を返した時、若い女の店員と目が合った。
別に、冷やかしで来ている訳じゃない。ちゃんと探しているものだってある。俺はできるだけ柔らかい声を出して、店員に尋ねてみた。

「あのぅ〜〜、指輪を捜してるんですけど、どんな感じのが喜ばれるモンですかねぇ?」
「プレゼントですか?」
「いや、あの、婚約指輪ってやつを……」
「ああ、エンゲージリングでしたら」

店員が形だけの笑顔で言いつつ、すぐ横に飾られた小振りな石が光る指輪を示した。

「こちらのダイヤの指輪が、女性の方には人気ですよ」

ディスプレイに輝く、プラチナのダイヤのリング。これって……家賃何ヵ月分?


 〜第五章 愛のしるしを、君へ〜


.
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ