七色の家族

□第十一章 麻模様の産着
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「万事屋さんのとこ、もうすぐ赤ちゃん産まれるんだって?」

かぶき町の往来、馴染みの呉服屋の店主に突然そう話し掛けられた。俺はしどろもどろになって、頭を掻いた。

「あー、そうなんスよ、カミさんがもうすぐ臨月で……」
「待ち遠しいねえ。産まれたら教えておくれよ!」

店主はにこにことして言った。まあ、子どもが産まれるのが待ち遠しいのは確かだし、笑顔で言われると悪い気はしない。自分の子でなくても、余所の子でも何処の子でも、赤ん坊の誕生は喜ばしいことだからだ。


そして昼飯時、いつもの定食屋に入ると、席に座るなりおばちゃんが話しかけてきた。

「銀さん、来月赤ちゃん生まれるんですって?楽しみだねえ」
「あ、あァ、まあ……」
「男の子かい?それとも女の子?」
「…………」

年寄りは万国世界共通子どもが好きだから、おばちゃんもどこからか、噂を聞き付けたんだろう。めでたいことだし、自分のことのようにウキウキするのも分からなくはない。


飯を済ませて大通りに出ると、運悪く、西郷のかまっ娘倶楽部のオカマ軍団に遭遇してしまった。

「あらんパー子、アンタんとこ、赤ちゃん産まれるんですってね!!」

アゴ美がキャッキャしながら言う。

「羨ましいわァ赤ちゃん!でも、アンタみたいなちゃらんぽらんな男じゃなくて、奥さんみたいカワイイ女の子が産まれるといいわねっ!」
「女とも男ともつかねェテメーらに言われたくねーよ」
「何だとゴルアァァァ!!」

奴らを無視して、俺はずんずんと道を歩いた。それからも町内の知り合いと出くわすたびに、毎度毎度同じようなやり取りを繰り返した。
千晶は、自分から言い触らして回るような性格じゃない。新八でも神楽でもないだろう。そうなると、心当たりは一人しかいない。


夕暮れ時、俺はまだ暖簾の下がらないスナックお登勢の扉を開いた。店内では、カウンターの隅にだけ明かりを灯して、バアさんが一人で夜の仕込みをしているところだった。
俺はズカズカと店に上がると、カウンター越しに文句をぶちまけた。

「おいババア!!ガキのこと町内に言いふらしてんじゃねーよコッ恥ずかしーだろーが!!初孫フィーバーかコノヤロー!」
「ウルセェェェ!!!急に話しかけんじゃないよバカ!間違っちまったじゃないかい!!!」
「…………」

バアさんが物凄い勢いで怒鳴り返してきたので、俺はぽかんとしてしまった。

ふと、バアさんの手にあるものに気付く。
それは魚を捌く包丁でも、グラスを磨く布巾でもない。かぎ針と毛糸、そして編みかけの、ふわふとした小さな帽子だった。


 〜第十一章 麻模様の産着〜


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