七色の家族

□坂田家の休日A
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「〜〜プハーッ!!うめえ」

中華飯店の二人がけのテーブル、ジョッキのビールの半分を一気に飲み干して、銀時は手の甲で口許を拭った。

私が仕事で江戸を離れてから、久し振りに過ごす銀時との時間。お互い意地を張って、連絡しなかったことを理由に夫婦喧嘩をしたけれど、和室で縺れ合うように抱き合って仲直りをした。それからお腹をペコペコに空かせて、かぶき町の中華のお店にやって来たのだ。

所狭しと配置されたテーブル席、酔った客の大きな話し声、中華店独特の香ばしい匂い。ああ、ここはかぶき町なんだなと思うと意味もなくわくわくする。大皿で運ばれてくる料理に、私は次々に箸をつけた。お腹が空いているからいくらでも食べられるような気がしたけれど、こんなに美味しく感じるのは、私の好きな町で、好きな人と食事をしているからだ。

大口を開けて炒飯を食べる私を見ながら、銀時が可笑しそうに言った。

「お前ってさァ、ホントにうまそうに飯食うよな」
「だって、お腹空いてるもの」
「食べすぎて太るなよ」
「人のこと言えるの?アンタだってお酒飲んでばっかいると、そのうちビールっ腹になっちゃうわよ」
「ウルセー」

銀時はビールのあとに紹興酒を頼んで、私はロックの焼酎を飲んだ。お酒が進むと話は尽きなくて、ここ一ヶ月の万事屋の出来事や仕事の話をしているうちに、あっという間に閉店の時間がきてしまった。

周りのお客さんが次々に帰り始め、私達は最後に会計を済ませて店を出た。酔っ払いが千鳥足で行き交う往来で、私は銀時の赤らんだ横顔を見上げた。

「ねえ、どっかで飲み直してく?」

既に飲んでいるから“飲み直す”というのもおかしな言い方だが、場所を変えて飲むときにはなぜかそう言ってしまう。たまにはおしゃれなバーカウンターのあるお店に行って、大人な時間を過ごすのも悪くない。そんな風に思っていたけれど、銀時は、

「いや、帰る」

と即答して、私の手を強く掴んで歩き出した。


家路を急ぐように、彼はずんずんと大股で歩を進める。繋いだ手がまるで熱を持っているかのように暖かくて、つい数時間前、このごつごつした手に腰骨を掴まれて、後ろから激しく突かれていたのを思い出す。広々とした背中が私に覆い被さって、逞しい腕に抱え込まれ、私の四肢を軽々と操って……そして滅多に見せない、餓えた狼みたいに猛々しい瞳をして、際限なく求め続けるのだ。

ちらりと銀時を見上げると、耳の下から顎に続く精悍なラインと、男らしい首筋が目に飛び込んできた。その瞬間から、彼から目が離せなくなってしまった。心臓が急にトクンと跳ねて、胸を締めつけられたように息苦しくなる。こんな時に限って、かぶき町の道端で雄の色香を感じるなんて、私の頭はどうかしているのだろうか。

「……オイ」

私の視線に気付いたのか、銀時が足を止めて私を見下ろした。

「お前、何て顔してやがるんだ」

少し充血した目を細めて、銀時は困ったように微笑んだ。頭の中で何を考えているのかを丸々見透かされた気がして、私は口を結んで俯いた。

「別に……何も」

それからの帰り道、私達は何も言葉を交わさなかったけれど、彼は繋いだ私の手を、親指の腹の辺りでずっと撫でていた。熱い手に包まれて優しく触れられていると、これから訪れる夜を暗示されているようだった。
そんな些細な仕草にも、胸が高鳴る。一歩一歩、万事屋に近付く度に鼓動が早まって、どうにかなりそうな気分だった。


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