SHORT STORY
□タバコは一箱に一、二本馬糞みたいな匂いのする奴が入っている(鬼兵隊版)
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宇宙海賊春雨との会合を終え、鬼兵隊の船艦は宇宙空間に漂い穏やかな時を迎えていた。
しかし、事件は唐突に起きた。
「うわあぁぁ!!」
鬼兵隊参謀武市変平太の悲鳴が、船内にこだました。声は船の備品倉庫から響いている。
万斉とまた子が、慌てて武市の元へ駆けつけた。
「どうしたんスか、武市先輩!?」
「晋助殿の……晋助殿の……!!」
「晋助が、どうかしたのでござるか!?」
武市は絶望した表情で告げた。
「タバコの在庫が、きれました……」
倉庫の床に手をついてガックリと項垂れ、武市は悲痛な声で言った。
「私としたことが痛恨のミス……!以前にも宇宙のど真ん中でタバコを切らしてしまい、その時は晋助殿の視線がひどく痛くて死にたくなりましたが……まさか同じ失態をやらかすなんて……!」
「何だ、そんなことッスか」
また子が呆れた調子で言い、冷たい目で武市を見下ろした。
「生活必需品の管理を怠った武市先輩の責任ッスね。さっさと腹切れロリコン」
「そ、そんなぁ、殺生な……」
「まぁまぁ。タバコくらいで随分大袈裟でござるな。どうしても必要なら、近くの星まで小型艇を出して調達してくればいいだけの話でござる」
と、助け船を出したのは万斉であった。
彼は操舵室へ向かうと周囲の惑星に座標を合わせ、手近な星を探し始めた。すると運良く、タバコの原産惑星として有名なハメック星が近辺にあることが分かった。
万斉は早速部下に小型艇の燃料補給を指示すると、片手を挙げて操舵室を後にした。
「会合も終わり、退屈していたでござる。拙者、ちょっとそこまで行ってくるでござる」
***
武市が鬼兵隊の部下に聞いたところ、ハメック星は国土の多くをタバコ畑が占めており、タバコを手に入れるのは容易だろうという話だった。
「いやあ、万斉殿はお優しい方だ。それに比べてまた子さんときたら、腹を切れなど、やさしさの欠片もない……」
安堵の思いを噛み締めているうちに、万斉が早々と帰ってきた。
「お帰りなさい万斉殿。……ってアレ、手ぶらですか?タバコは?」
「タバコ畑など、どこにもなかったでござるよ……」
万斉は深い溜め息をついた。ひどく落ち込んだ様子で、背中に暗い影が落ちているのが目に見えるようである。
「ハメック星は、悪の帝王ブリーザとやらに破壊されてしまい、無惨な焼け野原に変えられていたでござる。偶然、現地の少年に出逢ったのだが、残っているタバコは一本、しかもブリーザの攻撃で死んだ父親の形見だそうでござる……」
万斉は目頭の辺りを押さえて嗚咽を漏らすと、とぼとぼと船内へ引っ込んでしまった。
「……拙者、そういう悲しい感じのは苦手でござる……」
その時、入れ違いにまた子が武市のもとへやって来た。彼女は事の経緯を聞くと、呆れ顔でフンと鼻を鳴らした。
「男のくせに中折れなんて、情けないッスね。私だったら、晋助様の為にそのタバコぶんどってくるッスよ!」
「下品ですよまた子さん」
すると、また子は閃いたようにポンと手を叩いた。
「っていうか、そのブリーザって奴がハメック星やったんッスよね?なら絶対、ソイツがタバコ持ってますって。私、ちょっと行ってくるッス!」
***
バァン!バァン!
「ぐああ」
紅い弾丸の異名を持つまた子の早撃ちで、ブリーザは瞬殺された。
また子はブリーザの頭を靴のかかとで踏みつけながら、キツい口調で命令した。
「オイ、早くタバコ出しな雑魚。アンタがハメック星やったんだろ?」
薄く煙がたなびく銃口にフウと息を吹きかけ、再びブリーザへと向ける。
「アンタなんか、晋助様の足許にも及ばないッスよ。ニコチン切れた晋助様なら、片手一振りで星を吹き飛ばすッス!」
「ウゥ……」
ブリーザは低く呻いて、懐にごそごそと手を差し入れた。
「貴様……なかなかやるな……宇宙の覇王である私を倒したことを称えて、これをくれてやろう」
ブリーザが取り出したのは、タバコでもない、ネトネトした粘液のようなものがまとわりついたボールだった。
「何ッスかコレ……」
「ズルズルボールだ」
「うえっ!気持ち悪っ」
「気持ち悪くない。よいか、このズルズルボールはだな……」
ブリーザの説明を聞きながら、また子の瞳は爛々と輝き始めた。
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