SHORT STORY

□鬼兵隊と春雨のバレンタイン2017ver.
1ページ/2ページ


宇宙空間に漂う宇宙海賊春雨の本拠地。春雨の実権を掌握した第七師団は、同盟関係にある鬼兵隊の幹部を招いて、会合も兼ねた宴席を設けることになった。

会議場に設えた会食の場に、第七師団の面々は立ち話をしながら、鬼兵隊の到着を待っていた。豪勢な料理が次々と運ばれ、数々の珍しい酒が並ぶ。そんな中、ある一席の前に立つ人影があった。第七師団団長、神威である。

彼は他人から見えぬよう、マントの影から小さなガラス瓶を取り出した。中には赤紫色をした奇妙な液体が入っている。彼はその蓋を開け、皿の縁めがけて傾けようとした。だが、

「何やってんだ、てめェ」

会議場の入口から声がして、神威はサッと、瓶を後ろ手に隠した。そして、何事もなかったかのような笑顔を作り、片手を挙げる。

「やあシンスケ、お早い到着で」

声の主、晋助は、不信感をあらわにして神威を睨みつけた。神威が立っていたのは薫が着席する予定の席で、やましいことをしようとしているのが勘で分かった。

「俺の質問が聞こえなかったか?何やってんだって聞いたんだ」
「何のこと?」
「とぼけるんじゃねェよ。てめェが妙なモンを後ろに隠したのはこの目で見た。白を切るなら、同盟は破棄する」
「分かったよ。もう、大人げないなあ」

追及を逃れられないと悟ると、神威は諦めて、晋助に小瓶を渡した。蓋をしていても、それは微かに独特の香りが漂っていた。以前、どこかで嗅いだことがある匂いだ。そう思った瞬間、晋助はピンときた。
それは催淫剤として使われる香草の成分を、濃縮して瓶に詰めたものだった。

「オイ、これは……」
「安心してよ。俺達が扱う薬の中じゃ、かなりソフトなやつ……あ、刀を抜くのはやめてよ。正直に話すから」
「てめェ、コイツで一体どうするつもりだ」
「ほんの遊びだよ。ちょっと、やらしいことできたらいいなって思っただけ」
「………」

正直さに開いた口が塞がらないでいると、神威は悪びれた様子もなく言った。

「地球じゃあ、男が女に好きなコトさせるって習慣があるんだろ?バレンタインデーだっけ。野郎ばっかりのむさ苦しい空間にいるんだ、便乗したっていいだろ」
「違ェよ馬鹿。女が好きな男にモノ贈る習慣だ。曲解にも程があるぞ」
「アレ?昔そう聞いたような気がするんだけどな」

明らかに人をおちょくったような悪戯顔で、神威は首を傾げている。
そんな会話をしていると、会議場には万斉や薫、鬼兵隊の面々が姿を見せた。久しぶりの再会となる神威に、薫は穏やかに微笑んで会釈をする。それに応えるように、神威は爽やかに笑いかけ手を振っていた。

その様子を、なおも訝しげに見つめる晋助に対して、神威は肩を竦めた。

「安心して。料理に混ぜるなんて、そんなことしてないから。同盟の存続にかけて誓うよ」


***


鬼兵隊の船、会合を終えた晋助達が皆戻り、眠りについた頃だった。
晋助は奇妙な違和感を感じて、はっと目を醒ました。部屋の照明は、出入り口の非常灯のみ。その僅かな明かりを頼りに目を凝らすと、腰の辺りにもたれ掛かる、薫の姿が見えた。

「……どうした……眠れねェのか、薫」

彼女の表情はどこか虚ろで、瞳は涙を湛えて湿っていた。いつもなら就寝している時間だというのに、頬を赤く上気させ、不規則な浅い呼吸を繰り返している。

「晋助様……私、おかしいみたい……」

彼女の声は、妙に切なげだった。具合でも悪いのかと晋助は起き上がろうとしたが、薫はそれを制して、晋助の寝間着の裾にするりと手のひらを滑り込ませた。そして、無遠慮に脚の間を弄り始める。その意図を察して、彼は驚いて止めようとした。
だがそれよりも早く、彼女は彼自身を手のひらで支えるようにしながら、すっぽりと口の中におさめてしまった。唇と舌を使って丁寧に育てながら、片手で自らの腰ひもを緩めて浴衣を剥いでいる。晋助は困惑して尋ねた。

「っ……、いきなり、こんな真似して、どうしたってんだ……」
「……ふ」

ちらり、と晋助に向けられた彼女の視線は妖艶で、欲しくて欲しくて堪らない、潤んだ瞳がそう訴えていた。

「寝付いた頃から……疼いて疼いてどうしようもないんです。もう、変になってしまいそうで……」
(あのクソガキの仕業か)

晋助は心の中で舌打ちした。普段の薫なら、こんな真似は絶対にしない。理由があるとするなら、春雨の宇宙船での会食しか思いつかない。神威が隠し持っていた催淫剤、ようは媚薬のようなものを、彼はしっかり、薫の食事に混ぜていたのだ。微量なのか個人差なのか、薬が遅効性だったせいでこんな真夜中に作用が起きたのだろう。
海賊に誠意を求めるなど、はなから間違っていた。神威の、してやったりという悪戯顔が浮かんでくる。同盟の破棄では済まない、一体どう始末をつけようかという思いが過ったが、まずは目の前の薫だ。

薫は身を屈め、唇をすぼめて奉仕を続けていた。生暖かい口腔に意識を向ければ、下半身に血流が集っていくのを感じる。そして
それが臍につきそうなまでに隆起すると、彼女はけだるい動作で晋助の上に跨り、彼自身を指で支えながら、己の中に導こうとした。

「薫、待て、お前、」

制止の声をあげた晋助の、胸の中心あたりを、彼女の細腕が抑えつけた。そして両手で体を支えながら、ひと息に腰を落とした。

「ッ、ああ!」

薫の嬌声が、低い天井にこだました。彼女はそのまま腰のあたりに手をついて、快楽を求めて腰を揺すり始めた。唇は半分開き、眉間に悩ましい皺を寄せながら、情欲に濡れた声で喘いでいる。

「あ、あん……気持ち、い、晋助様」

催淫剤の効果で感度が良くなっているのか、我を忘れるほどの快感に支配されているのか、彼女はそんなことを口走っていた。
今までは、彼女自身から強く求めたり、積極的に何かをするということはなかった。羞恥や遠慮というものをどこかにおいて、ただひたすら欲求に従って快楽をむさぼる彼女の姿は鮮烈で、晋助はその姿から目を離せずにいた。

「っ、あ、もっと、……もっと……!」

薫は後ろに手をついて、激しく体を揺らしていた。あまりに妖艶な光景に眩暈がする。彼女の中は腫れたように熱をもって、いつもよりもずっと狭くて、気を緩めればすぐに爆ぜてしまいそうだった。

彼女は浅い呼吸を繰り返しながら、熱っぽい瞳で晋助を見下ろした。

「晋助様……下さい、はやく……はやく、」
「ーーーあァ」

何という誘い文句だ、そう思いながら、晋助は後頭部を寝床に押し付けるようにして瞳を閉じた。
彼女が上下に動けば動くほど、からだを切り刻まれるような感覚が下半身を支配して、徐々に心臓の方に突き上げてくる。晋助の手は、無意識のうちに彼女の華奢な腰を鷲掴みにしていた。歯の隙間から唸り声が漏れ、頭の先に限界が見える。

「っう……う」

下半身に渦巻く快感が、束になって一気に脳天を突き抜けた。その瞬間彼は弾けて、そして同時に薫も体を大きく仰け反らせ、声にならない悲鳴をあげて達した。

「っは、はあ、は……」

糸の切れた人形のように、彼女は手足を投げ出して晋助にしなだれかかった。背中に手をやると、肌が汗でしっとりと湿っていた。

暫くの間、言葉を交わさずに抱き合っていたが、やがて小さなすすり泣きが聴こえてきたた。肩を掴んで顔をあげさせると、彼女は声を出さずに、ぽろぽろと涙を溢していた。

「……何で泣くんだ」

晋助の問いかけに、薫は首を横に振りながら言った。

「……きらいに、ならないで、晋助様……」
「何だって?」
「こんな、はしたないことを……でも、どうしたらいいか……まだ……」

その続きを言えず、彼女は両手で顔を覆い隠してしまった。
我に返って、自分のしたことにいたたまれなくなったのだろう。そして、催淫剤の作用が切れていないことが、今の言葉で分かった。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ