SHORT STORY

□月は何処に宿るA
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唇を重ね合わせたまま、万斉は薫の細い肩を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。汗のつんとした匂いが鼻を突き、熱い肌の感触が、浴衣の生地越しに伝わる。心臓が膨らんで飛び出てきそうなほどに、お互いの鼓動は激しくなっていた。

彼の手は、先への進み方を迷うように、繰り返し肩を撫でていた。その手を薫は自ら掴み、己の乳房へと導くと、小さな声で懇願した。

「……触ってください」

初めは浴衣の上から。そして躊躇いがちに襟の向こう側へ、万斉は手を差し入れた。初めて人の肌に触れるような、ぎこちなさだった。
襟合わせがはだけ、乳房の盛り上がった部分が空気に触れる。肌には青い静脈がうっすらと透けて、蕾のように上を向いた胸の先端が見え隠れしていた。

万斉の手のひらが乳房を包む様子を、薫はじっと見おろした。彼の手は、彼女の倍ほどあるのではないかと思うほど大きく、ごつごつと骨張っていた。手のひらの中で乳房は形を変え、指先が胸の先端を捕らえた。摘まむようにして擦りあげられると、途端に薫の体が、魚のようにぴくんと跳ねた。

「あ、っん……!」

ちりちりと下腹が焼けるような感覚がして、堪らずに声が漏れる。だが、部屋が離れているとはいえ、同じ屋根の下では梅之助が眠っている。彼女は手の甲を唇に押し当て、ぎゅっと目を瞑った。

もしかしたら、はだけ易い浴衣のままで客間に来るなんて、こうなることを期待していたと思われたかもしれない。頭の隅にそんな不安が浮かんだけれど、肌を這いまわる指の感覚にすぐにかき消されてしまう。異性に触れられる、それが幾年ぶりになるのか彼女は忘れてしまったが、体は異常なくらいに火照っていた。
万斉の長い手足に縛られ、彼自身が己の奥深くを犯す様子を想像する。それだけで、体の芯が震えて達してしまいそうだった。


やがて、万斉の手は脇腹から臍の下へと降りていき、腰の辺りを撫でまわした。そして太腿の内側へと滑り込み、焦らして焦らしてようやく、彼は薫の中心に触れた。

「――――ああ」

そこがどんな有り様なのか、薫は確かめなくても分かった。滴る粘液が彼の指に絡みつく様子を想像して、あまりの羞恥に身震いがした。
彼は一切の言葉を発しないまま、大胆になっていた。薫を腿の上に座らせて、有無を言わせぬ力で足を広げさせる。溢れる源泉のまわりを円を描くように触れ、そして主張しはじめた小さな突起を剥き出しにすると、指の先で押し潰した。

「……まるで、蓮の花のようでござる」
「ひっ、あう、あ!」
「ここにも触れて構わぬのか」

珊瑚色の肉芽を指先で弾きながら、万斉はしとどに濡れた蜜壷の中へと太い指を埋めた。その瞬間、薫の頭の中は真っ赤に染まり、体中の血が沸騰したように熱くなった。

「狭くて……柔らかい」

耳元で囁かれた彼の声は、抑えきれない欲望が滲み出ていた。

「襞が幾重にも折られている。この中は、さぞ居心地がよかろう」

彼の手指に翻弄されながら、薫の瞼の裏側には、彼が三味線をかき鳴らす様子が浮かんでいた。器用に動いて棹を押さえる指先や、撥を操り巧みに動く手が、今は自分の中を暴こうとしている。
自分自身が楽器になったかのように、万斉に導かれるまま、薫はただ鳴くしかなかった。信じられないほど、彼は業師だった。

万斉の指が奥に沈み、出ていくのを繰り返すたびに、水たまりを弾くような卑猥な音が響く。その動きは徐々に早くなり、薫の息はすっかり上がって、無意識のうちに腰が揺れていた。

「誰を思うて、これほど泣いているのか」

耳孔に声が吹き込まれた瞬間、全身の血が、経験したことのないような速さで巡り始めた。瞼の裏に白い光が見え、それは自分に向かってどんどん近づいてくる。
彼の指は、薫を責め続け、追い立てる。彼女は目尻に涙を浮かべて、息も絶え絶えに言った。

「や、万斉さ、やめっ、いやあ」
「お前がどうなるのか、見せてくれ」
「いっ、ああ、っ――――!」

その時、強烈な尿意に似たような感覚に支配され、抗いようもないほどの快感に飲み込まれた。両手を口にあてがい、足を引きつらせる。足の間から迸った飛沫が、パタパタと音をたてて畳を濡らした。

だが、それで終わりではなかった。濡れた秘所から、万斉は指を離すどころか、蜜壷の中に再び指を深く埋めた。彼女は首を仰け反らせて、激しく首を振った。

「っあ、あああ、や……もうやめて、もう……!」

悲鳴に近い嬌声をあげながら、逃れようと体を捩ったが、万斉は止めなかった。長い指は奥に留まったまま、薫の内側を激しく擦り続け、彼女はそのまま二度目の絶頂に上り詰めた。

こと切れたように力が抜けて、四肢がだらりと垂れ下がる。焦点が定まらず、薄目を開けたままでいると、万斉の唇が降りてきた。意識とは無関係にお互いの唇が吸い付き、二匹の蛇が締め合うように再び舌が絡まった。
最初に唇が触れ合った時から、体の奥にある小さな切れ目が、疼いて疼いて仕方がなくなっていた。そのもどかしさを鎮めるのに、たった一つの方法しか残されていない。


万斉は薫の肩を掴んで押し倒すと、両手の手首を重ね合わせて、頭上で抑えつけた。乱暴な手つきで浴衣を剥ぎ、腿を開かせる。下半身に注がれる、異様な光を宿した眼差しは、身も心も狂ってしまいそうなほどの色香に満ちていた。
彼女の膝の裏を抱えあげ、足の間を腰で割る。浴衣越しに、怒張したものがあてがわれるのを感じて、彼女はひゅっと息を呑んだ。

(熱い――――弾けそうなくらい)

万斉を見上げる。彼は無言で、無表情だった。ただ、荒い息だけが薫の鼻先まで届き、煙草も酒も好まない彼からは、獣のような雄の匂いがした。

そう思った時、晋助ではない、違う男に抱かれようとしているのだという、鋭利な刃を突き付けられたような感覚が薫を襲った。彼女は硬く眼を瞑って、その時が来るのを待った。



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