SHORT STORY

□酔ひ醒めの花、零るる零るるA*
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月長石は、乳白色の半透明の石に、青白い光の反射がともなう。他の石には見られない、月の光のような独特の輝きである。
見る角度や明かりの色合いによって表情を変える様子は、晋助の言葉や仕草ひとつにさえ揺れる、薫の心そのもののようだ。


鏡台に置かれた月長石のブローチの隣に、晋助は懐中時計を置き、針の位置を確かめた。彼が用事で出掛けるまで、あと四半刻もない。

「時間を気にしながらお前を抱くのは本意じゃねェが」

彼はそう前置きして、薫に覆い被さった。

「このままじゃあ、出掛けられそうにねェよ。こいつを鎮めてもらわにゃあ…………なァ、薫」

硬さをもった彼自身を太腿に擦り付けられ、薫は頬を赤くして視線を反らした。
きゅっと結ばれた唇から、尖った顎先を通って首筋に至るまで、肌がうっすらと湿っている。口移しで水を飲ませた時に溢れたものが、まだ乾かずにいるのだ。晋助はその先の肌へと、手を伸ばした。

襟を強引と押し開くと、白磁色の膨らみが姿を見せる。尖端には、桜の蕾をつけたような慎ましい佇まいのものが、触れてもらうのを今か今かと待っている。

「ふ、―――っん」

晋助の赤い舌が肌を這い、胸の先を口に含んだ。硬くなったそこを吸い上げ、舌で弾くと、薫の唇から悩ましい吐息が立ち上った。
音をたてて吸い上げながら、片方の手が膝の間に滑り込む。割れ目を下から上へなぞりあげると、温かいものが指に絡みついた。

「ああ……」

薫が切なげに喘いだ。そこはもう、指が泳ぐほどに濡れている。そうーーー水を口移しをされた時から、期待に満ちてじくじくと火照っていたのだ。

裾を捲りあげ、晋助は膝の間に体を入れた。傷ひとつない、真っ白な足が眩しかった。膝の裏を抱えて足の間へと顔を近付けると、薫はパッと手を伸ばして秘所を覆い隠した。

「どうした」
「……昨晩、そのまま眠ってしまったから……湯浴みもしていないのです」

汚れてるわ、と小声で呟くと、晋助は彼女の手を掴んで問答無用で退けさせた。

「気にしねェよ。遠慮してる時間が勿体ねぇぞ」

腰を抑えつけるや否や、彼は下生えに鼻先を埋めて、神経の集まる敏感な場所に唇を寄せた。
恥ずかしさのあまり、薫は顔だけでなく全身の肌が真っ赤に染まった。いやいやをする子どものように首を左右に振りながら逃れようとしたけれど、彼に力で敵うはずもない。

彼は本当に、そんな些末なことに頓着しなかった。次から次へと滲みだしてくる蜜を吸い込み、伸ばした舌で膣の入口を責め立てた。両手を添えて陰裂を広げながら、舌先で器用に包皮を剥き上げる。小さな突起が、充血してふるふると震える様子をじっくりと見つめてから、そこを口に含んだ。

「ア……!」

薫の体が大きく波打った。唾液の絡んだ熱い舌が、肉芽の先端をくすぐっては、左右に転がしてゆく。膝を小刻みに震わせながら、彼女は堪らずに、彼の頭を柔らかな内腿で挟み付けた。

紫がかった艶髪が、肌に擦れてくすぐったい。ほんの一瞬視線を下半身にやると、彼の隻眼と目が合った。彼の瞳が妖しく細まって、舌が引っ込む代わりに、軽く歯を当てられた。

「ひっ……いや、ああぁ、ぁ」

嬲られて尖り起った芯は、すっかり敏感になっていた。薫の声に震えるような響きがこもり、背中が弓形に反り返る。恍惚とした表情は泣き顔に代わり、膝の痙攣が全身へ伝わっていく。

そこへの愛撫は、彼女を追い立てるためいっそう執拗に、速度を増していた。やがて、せり上げた恥骨が不規則な痙攣を始め、薫は声をあげる代わりに大きく口を開け、達した。

がくんと腰が崩れ落ち、胸を上下させながら余韻に浸る。すると衣擦れの音がして、晋助を見ると、着流しをはだけて、猛りたった上反りを今にも突き立てようとしていた。

「やっ、晋助様、待っ、て、まだっ」
「待ってやりてェが、生憎、時間も余裕もねェよ……」

息をする間もなく、剛直が襞の間に捩じ込まれた。透明の花液が吹き零れ、忽ち彼自身を湿らせる。熱いぬめりの中に、先ほど達した余韻がさざめくようで、彼女の内側はいつもよりきつく締め付けてきた。

晋助は彼女の両脚を肩に担ぐと、額を突き合わせるように顔を近付け、熱っぽい声で言った。

「こうしたかった。昨晩から、ずっと」

激しく突き動かしながら、唇を合わせて舌を絡めてくる。翻弄され続けるあまり、薫は目尻に涙を浮かべながらも、情熱のこもった口づけに必死に応じようとした。

激しい動きとは対照に、舌はゆっくりと淫靡な動きで、口腔を侵してゆく。それは頭が痺れそうなほどの心地よさで、身体がふわふわと舞い上がって、何処かへ飛んでいってしまそうだ。
酔いが残っているせいではない。短い時間を急くように余裕に欠いて、それでいて愛情に満ちた行為に、普段の何倍も溺れている。

晋助はどうだろうか。そう思って薄目を開けると、彼は悩ましげに眉を寄せて、一心に抽捜を繰り返していた。

「っ……ねえ、晋助様」
「ん」

動きを止めて、彼は短い返事をした。

「まだ、怒っていますか?」
「怒っちゃいねェよ」

肩から薫の脚を下ろし、腰の脇に抱え直してから、再び彼女を穿つ。

「腹が立ったのは、お前に対してじゃあねェんだよ。酔っ払って寝ちまった、たかがそんな事で臍を曲げた、自分自身に対してだ」
「今後はっ、あぁ、気を、付けますっ……」
「俺といる時以外は、飲むなよ……酔ったお前がどうなっちまうか、分かったモンじゃねェからなァ……」

少しの苛立ちを滲ませて言い放ったあと、彼は繋がった場所のすぐ上にある、花芽を爪先で弾いた。

「あうぅ、それ、いやぁ」

喜悦に浸る声が、絶頂にひとつ近付いたことを告げている。

「っ、ああ、強く、しないでっ……!」

途切れ途切れに訴える薫の首筋は、上気して真っ赤に染まっていた。
晋助を飲み込む内側の襞が、ぴくんぴくんと断続的に痙攣する。その刺激が伝わって、熱い塊の根本の方に強い脈動を走らせた。
薫は彼の腕にすがり付いて、涙声で懇願を繰り返した。

「あ、一緒に……一緒、にっ……」

糸を曳くように、艶やかに湿った声だった。

深々と突き入れる度に、薫は顔を仰け反らせて、息を弾ませながら床に爪をたてる。もう、二人とも終わりが近い。
一緒に。一緒にと、その感覚に憑かれるまま、肌をぶつけるように突き動かしながら、晋助は薫の奥へと飛沫を注ぎ込んだ。

「―――っあぁ……!」

喉を振り絞って悲鳴を漏らして、薫の内側は強烈なひきつりを起こした。息を止め、波に呑まれるような絶頂をやり過ごす。

それからぐったりと力が抜け、彼女は放心したように四肢を投げ出した。中では彼がゆるゆると動いているせいで、まだ射精が続いているのではないかと錯覚させられる。

「……晋助様の、暖かい」
「そうかい」

笑い混じりに答えたかと思うと、まだ硬さの残る彼自身が一度引き抜かれ、再び彼女の奥をずんと突いた。

「ン、あう」
「―――残念だが、時間だ」

晋助は名残惜しそうに言ってから、彼女から離れて上体を起こした。
白濁色をした液体が糸をひくさまは、まだ薫のなかに留まっていたいと、引きとめるかのよう。彼は丸めた懐紙で後始末をしながら、寝そべったままの薫を見おろした。

彼女はまだ起き上がれずにいて、膝を抱えて晋助を見つめていた。当人は膝を寄せ、見られてほしくない場所を隠しているつもりだろうが、足と足の隙間から、赤い裂目がちらりと覗いていた。綻びかけた花びらのように、鮮やかな鴇色から目が離せなくなりそうで、晋助はふいと目を反らした。

「……そんなふうに誘っても、続きはしてやれねェぞ」
「えっ?」

何のことか分からずにいる薫に微笑むと、晋助は乱れた着流しを整えて背を向けた。

「なるべく、早く戻る」
「はい。……待っています」
「昨晩、酔って寝たことを悪いと思っているなら、俺が戻る日は、何時になろうが起きて待ってろよ」
「はい」

子供じみた約束をする彼がいとおしかった。長羽織を肩にかけて出ていく姿を見送ってから、薫は鏡台に手を伸ばして月長石のブローチを手に取った。青みがかった乳白色が、濃密な睦み合いの後ではやけに艶麗に思えてくるのが不思議だった。

薫は色めいた吐息をついて、素肌を晒した胸にブローチを押し当てた。火照りきった身体に、ひやりとした感触が心地好く、晋助が去ってしまった寂しさが一瞬だけ、和らいだような気がした。



(おわり)

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