SHORT STORY

□鎖
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“立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”という言葉がある。女性の美しさを花になぞらえた表現だ。それはまさに薫を表すのに相応しい、晋助は日ごろからそう思っていた。純粋無垢で、誰に対しても慎ましい姿勢を崩さない。彼女は百合の花言葉である“純潔”の象徴のようで、それは他の誰でもない、己のために護っている純潔なのだと、そんな風に解釈していた。

ところがある戦の小休止、アジトの廃寺に咲いた姫百合を眺めながら、銀時と薫が楽しそうに話しているのを見かけた。銀時の柔らかな銀髪が陽射しに透け、彼女の漆黒の髪との色彩の対照が鮮やかである。ふたりの間で、可憐な橙色の花が風に揺れていた。
銀時が何か冗談でも言ったのだろう、薫は頬を紅潮させ、着物の袖を口許に当てて可笑しそうに笑っていた。遠目からも、ふたりの間の和やかで静謐な空気を感じとれる。

晋助は物陰からその様子を眺め、沸き起こる昏い感情に舌打ちをした。果たして、この頃の薫は己の前であんな笑顔を見せたことがあっただろうか。

長州で共に過ごした頃の彼女は、何をするにも晋助の言うことに従い、後をついて歩くような少女だった。同じ時期に明倫館へ入学し、日々勉学と剣術の腕を磨き、時に拮抗することはあっても晋助が彼女に負けることは無く、模範のごとく学問や剣術の教えを乞うていた。その勤勉な姿勢は、晋助にとっては出来の良い妹ができたかのように思わせた。自らに向けられる信頼と尊敬に満ちた瞳はどこか誇らしい気持ちにさせた。何かとの彼女の面倒を見てやり本当の妹のように慈しんだのは、彼女の信愛の情が心底いとおしいものだったからだ。

しかし、天人の襲来と攘夷戦争の勃発でふたりの関係に転機が訪れた。戦に臨む晋助に付き従おうと、薫は周囲の再三の制止も訊かずに彼を追って戦場へやって来た。逆らうことを知らなかった従順な彼女は、いつの間にか、他者の意に反してでも自分の意思を貫くことを覚えていた。

戦場の本拠地である廃寺を訪れた薫を目の当たりにして、晋助は激しく動揺した。彼女はもう子どもではなくなっていた。目立たぬよう慎ましくあらんとするほど、匂いたつような年頃の女の色香を隠せなかった。一体、何人の男が惑わされていることだろう。どんな強面の猛者でさえ、彼女の微笑の前では口許を綻ばせ、物欲しげな目で彼女を見る者さえいるくらいだ。

銀時とて例外ではない。薫の前では、近頃の彼は初恋を知った少年のような初々しい顔をするようになった。共通の話題でも見つけたのか、急激に距離を縮めているのが目に余るほどで、仲睦まじい様子には恋の始まりの危うささえ漂っている。

誰も預かり知らぬところで、まるで庭にひっそりと咲く姫百合のように愛を咲かせて、ふたりは想いを繋げていくのだろうか。そして薫は恋を知り、女になっていくのだろうか。そんな事が身近で起きようものなら、とても見過せそうにない。

銀時達が去ってから、晋助は庭に降り立ち、姫百合の花をひとつ乱暴にむしり取った。ぎゅっと手のひらで握り潰すと、鮮やかな花弁は無残な姿ではらはらと足許に落ちていった。地に落ちた花弁をぎりぎりと踵で踏みつけにして、彼は狂暴な感情が過ぎ去るのを待った。



***



その晩の丑三つ時、ひっそりと寝静まった母屋の廊下を抜けて、晋助は薫の眠る離れへ向かった。

「薫。俺だ」

襖の向こうから声をかけると、衣擦れの音がして、はい、と小さな声がした。襖を開けると彼女が眠そうな目を擦り擦り、上体を起こしたところだった。
暗がりに目を凝らし闇に慣れた頃、彼女は晋助の姿を捉えて、驚きを隠さず声を上げた。

「晋助様?どうなさったの、こんな夜更けに」

晋助は目を丸くした彼女の側に寄り、膝をついて目線を合わせた。

「薫。お前に訊きたいことがある」
「はい。何でしょう」

月の綺麗な夜だった。差し込む月明かりに照らされて、彼女の頬が青白く浮き上がっていた。
髪をおろした彼女は普段よりも幼く見える。布団を避けて正座をした彼女の頬に、彼はそっと掌を添えた。

「なあ、俺のことが憎いか?」
「えっ?」
「お前が俺の為に、故郷を捨てて戦場に来たのは知っているが、俺は昔のようにお前にあれこれと教えてやることは出来ない。戦でお前の身が危険に晒されるくらいなら、長州に戻ってくれた方が幾分か気が楽だとさえ思っている」

晋助は彼女の腕を引き寄せると、腕のなかに強くかき抱いた。

「すまない。お前を気にかけてやれなくて……つらい思いをさせて」

子どもをあやすような手つきで艶やかな髪を撫でる。彼女はされるがまま、安心しきった様子で身を委ねた。

「そんな、つらい思いだなんて」

彼女は躊躇いがちに、彼の背中にほっそりとした腕を回した。

「危険だとは分かっていますが、やっぱり私は晋助様の側にいたい。出来るならかつてのように教えを戴いて、少しでもあなた様に近づきたい」

彼女はすがるように身を寄せて、晋助の胸に顔を埋めて呟いた。

「ご心配していただくのは嬉しいですが、故郷に帰れと言われても戻りたくありません。こんな私でも、受け入れてくれる仲間も出来ましたから」
「仲間というのは、銀時のことか?」
「ええ。銀時さんや桂さんのことです」

彼女の口から他の男の名を聞くだけで、晋助の中に惨忍で昏い感情が芽生えた。彼女に他意はなく、ただ純粋に仲間だと思ってるのかもしれないが、妙な憶測が働かざるを得ない。晋助は彼女を抱く腕に力を込めた。この躰をどこにも逃がすまい、と願いを込める。

「薫、これからは俺がお前の面倒をみてやる。昔のように。俺の側で、俺に従えばそれでいいんだ」
「本当ですか」

彼女はパッと顔を上げ、華やいだ声で言った。

「うれしい、晋助様」

俺の側で、俺に従う。晋助は自らの言葉の響きに酔いしれた。薫の信愛の眼差しを手に入れ、己が何に渇望していたのか改めて気付く。己を信じ、付き従う純真な心を手に入れたかったのだ。彼女が拠り所として慕うものは自分以外には要らない。その眼に映るのは自分の他には誰ひとりとして認めたくはない。これは独占欲、いや、征服欲と言ってもいい。

晋助は顔を傾けて、薫の頬にそっと唇を触れてみた。滑らかで柔らかく、ほんのりと甘い香りがする。全て自分のものだ、と思ってみる。彼女を手の内におさめて、望むままに愛すること。それも自分だけに赦された、禁忌の秘め事だ。
頬から目尻へ、目蓋から額へと順繰りに唇を落としていくと、彼女はくすくすと笑いながら頭を振って、やんわりと抵抗をした。

「やめてください。くすぐったいわ、晋助様」

彼女は何も気付かない様子で無邪気に笑い声を漏らしていたが、唇が首筋に強く押し当てられた瞬間異変に気付いたようだった。彼女の声に明らかに戸惑いが混じった。

「し、晋助様……?」
「じっとしてな、薫」

優しく諭すように言ってから、晋助は寝間着の袷目に手を差し入れた。胸の膨らみに掌を這わせ、その柔らかさと温かさを確かめる。薫を見れば、羞じらいを耐えるように唇を結んで顔を背けていた。

「なあ、見せてくれるか?俺に」

彼女は唇を噛んで黙りこくったまま、微動だにせず固まっている。耳許に唇を寄せ、触れるくらいの近さで囁いた。

「お前は大人になった。少し見ない間にぐんと綺麗になった。……俺は、お前に触れてみたい」
「……っ!」

薫の耳が急に熱を持ち始めるのが分かった。晋助はその形のよい耳の縁を舐め、耳朶を唇で優しく食んだ。

「晋、助様」
「どうした」
「何だか、変な感じ……」

耳孔に舌を差し入れざらりと舐めると、彼女は吐息混じりに肩を震わせた。

「あ、ふ……」

陶酔しかけたのを見計らって、彼女の着ているものを一息にはだけさせた。抗う隙を一切与えず、両手首を布団に押しつけて組み敷く。
突然の出来事に彼女は目を丸くし、狼狽と羞恥に揺れる瞳で晋助を見上げた。

「晋助様……何をなさるの」

彼女の上半身は、陶器のように白くみずみずしい肌をしていた。小振りでお椀型の乳房は、肌の白さのせいか青い血管が細く浮き出ていた。その先端には、ほんのりと色づいた梅の蕾が芽吹いている。
誘われるままそこを口に含むと、彼女は悲鳴を上げて身体を震わせた。

「ああっ!」

晋助は舌を出し、乳輪の形に沿って円を描くように舐め回した。くるくると舌を動かし、軽く吸ったり舌の腹でざらりと撫で回したりしているうちに、そこはどんどん赤みを増してツンと尖っていった。先端のこりこりとした感触を味わうように噛んで歯を立てれば、薫の口からは途切れ途切れの喘ぎが漏れた。

「んっ……晋助様、恥ずかしい」
「いいから、俺に任せていろ」
「で、でも……」

抵抗を試みては諦め従う、その姿には、どうしてこんなことをという戸惑いや混乱が見て取れた。しかし躯がこの状況を受け入れ、悦びを感じ始めているのは事実だった。彼女の肌は熱を帯びて桜色に染まり、しっとりと汗ばんでいる。羞恥心の隙間から、歓喜が見え隠れしているのは晋助にも分かっていた。彼女がそれを出すまいと、必死に唇を噛み締めている様子は健気に映った。言いつけ通り、なすことを従順に受け入れる彼女がこの上なくいとおしかった。

(ああ、教えてやりたい)

―――そう、誰にもされたことのない、彼女がまだ知らないこと。
これは花を踏みつけにする行為ではない。綻びかけた蕾を大切に大切に育て、花開かせた後、己の手で摘んで自分だけのものにするのだ。

晋助は乱れた寝間着の裾から覗く薫の太股をひと撫でした。そして華奢な膝を掴むと、一息に脚を大きく開かせた。
露になったその部分は、淡い繊毛が漂うように揺れており、貝のように合わさった花弁が閉じていた。そのうえに、蕾のような楚々とした陰核が覗いている。
誰にも見せたことのない聖域を露にされ、薫の目の色が変わった。

「あっ!いや!」

彼女は悲鳴を上げて脚を閉じようとしたが、晋助はそうさせなかった。彼女の唇をきつく塞ぎ、舌を捩じ込み逃げ回る舌を捕まえて強引に絡ませる。彼女の喉から細い呻きが漏れ、糸が切れたように躰からすとんと力が抜ける。餌を喰らう獣のように貪欲に唇を貪りながら、彼はは下肢の間の湿り気を探り当て、細やかな形を確かめ指先で弄んだ。じわじわと滲む蜜を掬いとり、割れたところを人差し指で往復する。

小さな肉芽を爪先で掻くように擦ると、薫の太股がぶるぶると震え始めた。そこがしだいに膨らんで、存在を主張し始めるのを指先に感じる。包皮を剥き、直にきゅっと摘まみ揺り動かすと、彼女の腰が大きくびくんと跳ねた。

「あうっ、あぁ!」

刺激の強さに甲高い声が上がる。何度か繰り返してから下のほうに指を伸ばすと、しっとりとした潤いが指先に絡みついた。男を受け入れるための入り口を探り当てると、奥から溢れる花液がくちゅくちゅと卑猥な音をたてた。

彼女が示すひとつひとつの反応に、晋助の身体には熔岩のような欲望が噴き上げた。全部を奪って今すぐ自分の女にしてしまいたい、そんな思いに喉を鳴らしながら、彼女の両腕を腰ひもで結わえつけ頭のうえに持っていった。万歳をさせたまま彼女の膝を肩の上まで押し上げ、猛った自身をあてがう。

「いや、晋助様っ、やめて……!」

薫は脚を激しくばたつかせて抗おうとした。膝小僧を強く押さえ付け動きを封じると、強引に腰を割って前に突き出した。ぐっと先端が中に入り込んだ時、彼女は手脚をピンと張り、硬直したように動かなくなった。

「いっ、痛いっ!」

肉を裂くように、閉じられた体内を押し開きながら腰を沈める。無意識の抵抗に抗い、掻き分けるようにゆっくりと奥へと進んでいく。温かい肉襞に包まれる感覚に、強烈な快感が脳天まで突き抜けた。全てが奥まで入り、先端が子宮の入り口までたどり着くと、晋助は深い吐息をついて彼女の胸に顔を埋めた。

「薫……」

全てを彼女の中におさめて、彼は乱れた髪をかきあげて彼女を見下ろした。ぎゅっと眉を寄せ、唇をきつく噛み締める、その苦痛を堪え忍ぶ表情すら欲情を煽る材料にしかならない。

確かめたい。この熱い肉体を知るのは、この世で自分だけだということを。彼は繋がった部分を見下ろして訊ねた。

「なァ、他の男に抱かれたことはあるか?」

繋がった場所を指でなぞる。ぬるりとしたものが指先にまとわり、そこに血が混じっているのではないかと憶測がはたらく。

「っ…ありません…」

答えた薫の目尻から、ぽろぽろと大粒の涙が零れた。破瓜の痛み故の涙だと思うと、歓喜のあまり鳥肌がたった。

「俺が初めてか?」
「……はい」

彼女は泣き濡れた目でまっすぐに晋助を見上げた。母とはぐれた小鹿のような怯えた瞳に見つめられ、燻っていた征服欲がじわじわと満たされていく。
これは彼女の信愛を踏みにじり、思うままに組み伏せる行為だ。そんな非道な行いをもって得られるのは、完全なる支配への充足。男を知らない彼女に一から苦痛と快楽を味わわせることが出来ると思うと、背徳感に身震いがする。

「初めは誰だって痛いものさ」

彼は努めて優しく彼女を諭した。

「最初だけ我慢すれば、あとは信じられないほど好くなる。極楽というものがこの世にあるとすれば、交わる時の飛んじまうような感覚さ。だから今は我慢していてくれ……」

彼女の涙を指で拭うと、唇をそっと重ねて彼女の腰を抱く。無理矢理に犯されているというのに、思い遣る言葉をかけてやると、彼女は腕の中で急におとなしくなった。あとどのくらいかこのままでいれば、彼女の膣の内側が己の形に馴染み、痛みが和らいでいくだろう。それから一体どうやって彼女に快楽を味わわせてやろうか。

「俺が教えてやる。男に抱かれるのが、どれだけいいものかってことを」




(続く)
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