鬼と華

□水天一碧 第三幕
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蒲団の上へと、扉の隙間から朝陽が降り注いで、縞模様のように流れている。薫は瞬きを数度してから、眩しさに慣らすように薄目を開けて陽射しを追いかけた。
頭の半分は、まだ温かい泥濘に沈んでいるように眠りの中に留まるが、外はすっかり明るいようだ。晋助が目覚める前に朝餉の支度を終えて、ちょうど起きた頃に温かい食事を出してやりたい。

彼はすぐ隣で、横向きになって寝息をたてていた。長い睫毛が小さく揺れており、逞しい腕が腰のあたりに絡まっている。抱き合って、そのままの姿勢で眠ったのを思い出して思わず笑みが溢れる。腕はだらりと重く、片手で動かすにも一苦労しそうだった。

「晋助様」

愛しい人。何だ、と答える声はとろんとしておりまだ眠そうである。
腕を避けて布団を抜け出そうとすると、彼はそうさせまいと強引に抱き寄せた。両腕できつく抱きすくめながら、首もとや髪に鼻先を擦り付ける。まるで気紛れに甘える猫のようだ。薫は小さく笑い声を漏らした。

「やめてください。くすぐったいわ」
「……お前は甘い匂いがする。なぜだろうな」

彼は目を閉じたまま寝言のように呟いた。その時、彼女はあっと思い肩を強張らせた。腿の後ろに、硬起したものが押し当てられたのだ。どきっとして後ろを振り返る。男性の生理現象でそうなるのだと分かっていても、どうにも気恥ずかしくて、身を捩って腕の中から脱け出そうとした。

「私、そろそろお食事の支度にいかなくちゃ……」

懇願を無視して、晋助の片手が胸元から乳房へと滑り込んだ。もう片方の手は素早く腿と腿の間に忍び込む。胸の先端と、敏感な陰核を同時に指先で弄ばれ、彼女は小さく悲鳴をあげて背中を丸めた。意識の半分がまだ眠りの中にあるせいだろうか、朝の朧気な明るさの中だろうか、いつもより敏感に反応してしまう。
それに、彼はどうやら気紛れや悪戯でそうしているのではなさそうだった。手で押し返したり腕を払ったり、暫く無言の攻防を繰り返してから、彼女は困り果てて訴えた。

「晋助様、朝餉が遅くなってしまうわ」
「構いやしねェよ」

晋助は背後から耳朶を囓って、耳腔に声を吹き込むように囁いた。

「昨晩の続きがしたくなった。飯よりも今はお前が欲しい」

脳髄が痺れそうに甘い誘惑だった。支度をしなくては、という葛藤を打ち負かすには十分で、彼女はぎゅっと目を瞑って身を委ねた。明け方に抱き合うのは、いけないことをしているような背徳感と、寝床を共にした恋人達が味わう親密さが隣り合わせになっている。

彼は薫の寝間着の裾をたくしあげて臀部をあらわにすると、無遠慮に撫で回した。手のひらが割れ目にあてがわれ、中指で入口を捜すように何度も往復する。不思議なもので、そんな気はなくとも、触れられれば反射のようにすぐに潤みを含んでくる。昨晩の余韻が、あるいは彼が奥に放った残さが未だ中にあるようだった。誘うように溢れて絡み付き、くちゅ、と卑猥な音がした瞬間目が合った。唇を噛んで恥ずかしそうに目をそらす様を、彼はしてやったりという顔で見ている。

それから彼は、目の動きだけで薫を誘導した。戸惑う彼女の腰を強引に掴み、己に馬乗りにさせる。衣擦れの音をたてながら腰を密着させると、腿の間に硬くみなぎるものを感じた。
どうして欲しいかは、言葉で言われなくても理解できた。彼女はコクリと唾を飲み込み、はだけた寝間着から覗く飴色をした彼自身を手にとった。

(……熱い)

胸がどきどきするのを感じながら、そっと手を沿えて腰を浮かせる。前戯に時間をかけなくても、彼女の内側はとろみのある蜜を湛えている。焦点を定めてゆっくりと迎え入れると、それは何の抵抗もなくつぷつぷと奥へ吸い込まれてゆく。少しずつ腰を落として、彼のものが内側を暴いていくのをじっくりと堪能した。受け入れるのと違って、自ら迎え入れる時の接触感は別物だ。

「っふ……!」

一番奥まで届いた時、子宮にずんと響く衝撃があった。突き当りに凹凸とした突起があり、刺激されるたびにきゅうきゅうと歓びに引き締まる。遠慮がちに腰を揺すると、周囲の襞が自然に絡みついて、身体の深淵から快感を呼び覚ました。

暫くして、裾の下に晋助の手のひらが入り込み、膝の内側から腿を通ってするすると昇っていった。秘粒を捕らえようと指先が繁みに侵入しようとしている。彼女は悪企みをするその手をパッと掴まえた。晋助がひょいと片方の眉を上げて意外そうな顔をしたので、彼女は牽制するように言った。

「晋助様は、じっとなさってて」
「動くなと?俺にか?」
「はい」

彼女は手をついて上体を支えると、腰をくねらせるように前後に揺らした。亀頭の出っ張りが擦る度に、快感にぞわぞわと内側が騒いだ。悩ましげな声をあげながら双臀を蠢かすうちに、なんていやらしいことをしているのだろうと、羞恥を感じるほどに体は熱く火照る。

いつもは晋助が中の具合を確かめるように動くので、すぐに快感の渦に飲まれて己を見失ってしまうのに、自ら動くのは勝手が違って、幾分か冷静でいられた。腰を揺すりながら彼の様子を窺うと、首を仰け反らせ、途切れ途切れに艶かしい吐息をついているところだった。

(晋助様がこんなお顔をなさるなんて)

若い恋人達の情熱的な恋愛のごとく、蕩けそうなほど甘い朝の始まり。はだけた胸元に手を這わせる。逞しい胸板を手のひらで確かめながら、込み上げて止まないいとおしさをどうすればいいだろうかと思案に暮れる。戯れに、身体を屈めて裸の胸に唇を這わせてみる。薄い褐色の突起を、晋助がするのを真似て何度か吸ってみると、彼の肌がぴくりと震えて吐息に低い唸り声が混じった。チロチロと舌先で転がしながら、腰を後ろに突き出すようにして上下にくねらせた。剛直が出入りする度に粘液が弾ける音が響いて、それは次第に大きくなってゆく。やがて晋助は彼女の腰骨を掴み動きを制し、焦りの混じった声で告げた。

「お前の中が暖かくて柔らかい。もう持たねェ」

薫は頷いて、腰の動きに緩急をつけた。肌が汗ばんで光り、長い髪が乱れて背中に踊る。彼女は髪を無造作に後ろに払いながら、腰を掴む手を柔らかく振りほどいた。

「私はいいから、晋助様によくなってほしい……」

それから彼女は彼の腿に手を置いて、上下に激しく身体を揺さぶった。ああ、と彼は高い掠れ声を上げ目許を手の甲で覆った。彼自身がいっそう膨張して硬さを増す。出入りする衝撃が脳天まで響くようだ。下腹部の熱さに陶酔しながら、彼女は小声で囁いた。

「もっと大き、くなってる」

愛しいひとを自ら導くのは、これほどに気持ちが昂るものだとは知らなかった。無意識に激しく腰が跳ねる。そのうち彼を導いているのか、己が快感を求め追いかけているのか、どちらかが分からなくなる。
やがて彼のが数度うち震えたかと思うと、一際荒い呻き声とともに、熱いしたたりが噴き上げた。

「あ、あ……」

下腹の奥に迸るのを感じて、声が漏れるのを抑えられない。肌から脈動が直に伝わるようだった。もっと満たしてほしいと願いながら、ぎゅっと腰を太腿で挟み込む。

晋助は下肢を震わせながら何度か吐精を繰り返してから、肩で大きく息をしていた。耳朶のふちと目許が赤くなっている。達したあとは気だるげな艶っぽさが漂うものだと思いながら、繋がったままで彼の様子をじっと見降ろしていると、彼は不満をあらわにして言った。

「そんなにじろじろと見るな」

指先で頬を軽く突かれて、薫は笑わずにいられなかった。達したあとの照れくささは嫌というほど知っているので、彼女は彼の様子を暫く堪能してから、ゆっくりと繋がりをほどいた。



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