倉庫

□最期まで
1ページ/1ページ

彼は最期まで、人であり続けたのだ。
その訃報を聞いた時、そんな事を考えた。


人を、心を信じたいと願い、友の無事を祈った。

その隙を、突かれたのだ。結果、彼は人に裏切られて死んだ。信頼していた部下だったそうだ。
彼を殺した部下も、同僚に殺された。そしてその同僚も曹操軍の者に討たれ、今や彼の軍は曹操の手にある。

今頃、仇を討った部下と感動の再会を果たしているだろうか。自分を殺した部下とも顔を合わせただろうか。
しかし、彼の事だ。どちらも許すだろう。


「…だから貴方は甘いと言うのです」

いつかと同じ台詞を零す。一度となく、二度三度繰り返した言葉。
その度に笑って、それでも良いと語った。


「…馬鹿ですね…」

もはや、顔も声も朧気だった。過去の人間だと言い聞かせていた筈なのに。

その言葉は、深い水底から水面へ浮かび上がってくるように、鮮明に思い出される。


いつか自分も死んで彼岸へ渡る日が来るだろう。そうしたら、彼を探し出してやろう。


今度こそ、捕まえて離さない。
もう忘れないように。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ