何でそんなにツンツンすんのかね。自分のデスクから小野寺を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。昔はあんなに『先輩、先輩』って俺に纏わり付いて可愛かったのに。 そして何度も『先輩が好きです』って、顔を真っ赤にしながら言ってきたじゃねぇか。 どう言うわけか、今はその片鱗すら見せない。誰だ?お前! それが全て俺のせいだと言うならば。 『お前が好きだ』 何度だって言ってやる。お前が認めるまで言ってやろうじゃねぇか!覚悟しとけよ?もう二度と俺の前から姿を消さないように。今度は絶対に逃がさない。あんな思いをするのは……真っ平ごめんだ! 当の本人と言えば、隣の席の三十路のくせに無駄に愛くるしい木佐に、これまた飛び切りの笑顔を振り撒きながら楽しげに話をしている。 その笑顔、こっちに向けやがれ! 嫉妬…だよな?我ながら独占欲が強いと思う。でも、それはお前だからだ。あの時はこんなにも好きになるなんて思ってもみなかったけれど、お前は俺の初恋なんだ。誰と付き合っても忘れることなんて出来なかった唯一無二の存在。 だからさっさと認めちまえ、俺が好きだって! その日の仕事終わり、早々と編集部を出てエレベーターに乗り込もうとする小野寺を捕まえる。 「待て、俺も乗る」 「た、高野さんっ!会議だったんじゃないんですか?」 そんな顔するなよ。こいつは俺と目が合うとすぐ顔を背ける。まだ何もしてねぇだろうが。 まぁでも、こんなのはいつものことだ。取り敢えず今日も小野寺を部屋に連れ込む口実を考えなければ。何だっていい。連れ込みさえすればこっちのものだから。 「中止になった。今日一緒に飯食いたいんだけど」 「何で一緒に食べなきゃいけないんですかっ、一人で食べて下さい!」 素直に受け入れるわけねぇか。分かってはいたけど、さすがに即答はムカつく。 「なぁ小野寺。ちゃんと俺の目ぇ見て話せよ?」 壁に手を付き耳元でそう囁いたら、顔どころか耳まで真っ赤にさせて俺を睨みつけてきた。やっぱりこいつ可愛い。こうゆう反応は俺を更に煽るってこと、わかんねぇのかな? 「ちょっ…もうドアが開きますよ?早く離れて下さいっ」 小野寺に両手で突っぱねられたところで、ちょうどドアが開いた。 マンションに着くまでも俺達はずっとこんな感じで……って、ガキじゃあるまいし。今時中学生だってキスぐらいするっての。アホかっ! 俺はあるタイミングを狙うことにする。玄関の前まで来て小野寺がカギを出したら。 「あっ!!高野さん返してっ!」 小野寺のカギを取り上げ自分の玄関のドアを開ける。当然のことながら、小野寺は俺の後を追って中に入って来た。それと同時に両手首を掴み、ドアに押さえ付けながらキスをしてやる。 「んっ……ふっ……やめ…」 「律、好きだ……お前が好きだ」 一度唇を解放してやり、今度は舌を絡ませる。小野寺から甘い声が漏れた。これもいつものことだけど、嫌がるわりには決して本気で抵抗はしてこない。体を組み敷いたってそうだ。華奢だとは言えお前も男、全力で抵抗されたら押さえ付けることは出来ない。なのに、だ。 でもそっれてどうなんだ?俺のことが好きってことだろ?どうにでも好きにして下さいってことだろ? 本当に嫌だったら逃げればいいだけのことだ。どうせ許すんなら最初っから素直になりゃいーのに。でも、そんなとこも可愛くて堪らないんだけどな。 「律?」 「高野さん…は…昔の俺が好き、なんでしょう?」 何?この反応。お前は何も分かってねぇよ。 「バーカ。今のお前はもっと好きだ。」 一度触れてしまえば、何度も何度も欲しくなってしまう。人とは貪欲な生き物だ。手を伸ばし頬を撫で上げながら、今日三度目のキスをする。絡めた舌を更に強く吸い上げた。 |