過去拍手御礼文

□アメとムチ
1ページ/1ページ


毎日こうも暑いと頭がうまく働かないし、第一集中力が続かない。おまけに前回、締め切りを思いっきりぶっちぎってしまった為、厳しく監視されるようになっていた。
締め切りを破ってしまうのは今に始まったことではないけれど、あれはホントにホントにヤバかった。本気で怒らせてしまい説教は勿論のこと、暫く連絡が取れないだけでなく、トリのご飯にもありつけなかったのだ。
別にご飯を作ってもらう為に締め切りを守るわけじゃないけれど、手料理がうますぎるんだから仕方ない。
でもこれはやり過ぎなんじゃないだろうか。あいつだって忙しい筈なのに、その合間をぬって毎日進行具合を確認しにやって来る。
いくらなんでもこれでは息が詰まるし、イライラが増すだけでいい作品を生み出せる筈がない。

「あーもう無理っ!!ちょっとくらい、いいよな?今回は順調だし」

すっかり作業に飽きてしまった俺は、脱出を試みる。いや、間違えた!飽きたんじゃなくて、ただ集中力が切れただけ。リフレッシュは必要なのだ。
ノートを開き「急用が入ったので外に出ます、決してサボりではありません」と書いて、ビリッと破いた。それをテーブルに置き、財布だけを持って玄関に急ぐ。せっかく外に出ても携帯を持っていたら意味がないので、これは敢えて置いて行く。
さて、どこに行こうか?これと言って目的はないけれど、最近新刊をチェックできていなかったし、書店なら冷房も効いていて何時間いても飽きない。
そうと決まったら即実行だ!早くしないとトリに捕まってしまう。
久しぶりの外の空気に胸を踊らせながら、鍵を開けて足を踏み出そうとした、まさにその時。

「ひゃっ……ト、トリ !!」
「吉野、どこに行くんだ?」

険しい顔をしたトリが、目の前に立ちはだかっていた。どこかで見てたんじゃないかと思わせるタイミングで現れて、俺の脱出計画は呆気なく終了。

「いや、その……飲み物でも買いに行こうかと」
「飲み物ならここにある」

そう言ってコンビニの袋を差し出されれば、返す言葉も見つからない。

「ほら、暑いしアイスも食べたいな〜なんて」
「それも買ってきた」
「ああ……さようでございますか」

くっそお、無駄に気が回りやがる。俺を監禁してそんなに楽しいか?こんの鬼編集がっ !!
腕をがっちりホールドされ、抵抗する気力も全くなくなって、仕方なく部屋の中に戻る。そんな中、テーブルの上のメモを見つけたトリが、更に眉を吊り上げた。

「急用って何だ?」
「あっはは……えっと、何だったかな…… もう忘れた」
「お前全然懲りてないな」
「あのさぁ、今回は順調なんだから問題ないだろ?悪かったと思ってるけど、毎日監禁されてたら気がおかしくなんだよ!人の気も知らないで、勝手なことばかり言うなっ。外の空気吸うぐらいいいだろ?ほっとけよ!」

所詮お前は、吉野千秋よりも吉川千春の方が大事なんだ。それがトリの仕事なんだし、分かってはいるけれど……何だろう、まるで商品としてしか見られてないみたいで凄く寂しく思えた。だいたい俺に時間ができると、入れ変わりでトリが忙しくなってしまうのだから、完全にすれ違い状態。

「はぁ……まだ内緒にしておこうと思ったんだが。……終末迄には絶対に終わらせろよ?」

溜め息をつきながら手渡されたのは、ずっと行きたいと言い続けていた水族館の入場券だった。なかなかお互いのスケジュールが合わないから、保留になっていた。

「あっ……コレ……」

俺が大騒ぎしなくても、トリは初めからそのつもりで時間を作ってくれていたらしい。

「頑張れるよな?」

そう言って、俺の頭を撫でながら優しく笑うから、大人気ないことを考えていた自分が恥ずかしくなる。さっきまで怖い顔をしていたのに、いきなり笑顔を向けられて、胸が高鳴った。

「うん……トリごめん、ありがとう」

頭を撫でていた指がスルリと頬を伝い、顎を持ち上げたかと思うと、トリの唇が重なる。甘い感触に身体が疼いて、触れ合うのが久しぶりなことを思い出した。
こいつ、良くも悪くもホント俺のこと分かってるよなぁ……。

もっと、触れて欲しい。
トリが俺の扱いに慣れているのか、それとも俺が単純すぎるのか────。
……何これ、マジむかつくんだけど。

じゃあ頑張れ、と会社に戻ろうとしたトリのシャツを、気が付けばしっかりと掴んでいた。


END. 蓮


*20130905〜20140514までお礼文として使用


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ