純情エゴイスト

□抱きしめたい
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今日はヒロさんと映画を観に来ています。久々のデートだから、ドキドキワクワクしてます。
でも、すみません。
観たい映画があると言って、渋るヒロさんを連れ出したのは俺の方なのに、目の前のスクリーンではなく今あなたを見ています。
横顔を見ながら改めて思った。やっぱりヒロさんは綺麗だ。
どうしよう、今すぐあなたにキスしたい!
ここは映画館だし、周りは暗い。大丈夫ですよね?
わざとヒロさんの足元に携帯を落としてみた。
拾い上げながら顎に指をかける。
ほんの一瞬……触れるだけの軽いキス。もう少し触れていたかったけれど、怒ってるんだろうなぁ。しかもこんな場所で。
チラリと横を見てみれば案の定、眉間に皺をよせて険しい顔をしているヒロさん。暗くてよくわからないけれど、たぶん顔が赤いんだと思う。
そんなあなたは可愛いです。
もっと触れていたくて、左側に座るヒロさんの右手に左手を伸ばして繋いだ。
絶対に手を振り払われると思った。でも返ってきた反応が意外なもので、思わず顔が綻ぶ。
一度だけ指を絡めてきて、ぎゅっと握り返してくれた。それはすぐに離されてしまったけれど、嬉しくて嬉しくてたまらない。


映画はあっという間に終わってしまった。
内容なんて殆ど覚えていない。本当は映画なんてどうでも良かったんだ。
ただヒロさんと、デートっぽいことをしてみたかっただけ。こういう時間は久々だったから。

「おいコラ!てめぇーが観たいってゆうから来たんじゃねぇーか、全く観てなかっただろ!」
「すみません、ヒロさんが気になっちゃって……痛っ」

ヒロさんは俺の頭を叩くと、どんどん歩いて行ってしまった。

「あっ、待って下さいヒロさんっ」
「しかもあんな恥ずかしい真似しやがって!」
「ずっとヒロさんの顔を見ていたことですか?キスしたことですか?それとも……「バカ野郎!全部だっ!」」

顔を真っ赤にさせながら怒る様子が可愛いすぎる。もっと甘えてくれたらいいのに。
いつもそう思っているのだけど、現実にはそう簡単にはいかず。

「おい野分、さっさと帰るぞっ早くしろ!」
「ヒロさん、もう少し歩きませんか?」
「嫌だ、帰るっ!」

結局俺の希望は聞き入れてはもらえず、真っ直ぐ家に向かった。もう少しデートをしていたかった。
あっという間にマンションに着いてしまい、しょんぼりと部屋に入ると。

「お前のせいで時間無駄にしたじゃねーか」

ボソリとヒロさんが呟いた。

「すみません」
「そうじゃねーよ!家だったら二人で……もっとゆっくり……」
「え?」
「や、いい……何でもない」

ヒロさん、それって、それって……!

「おわっ!いきなり飛びつくなって!」
「今顔に抱きしめて欲しいって書いてありました!」
「書いてねぇよ !!」

俺はヒロさんを抱く腕に力を込め、キスをした。今度は映画館の時のような触れるだけのキスではなく、もっと深くて甘いキス。

「んっ……」

こんなキスだけでは全く足りない。もっともっとあなたが欲しい。

「いっぱい、イチャイチャしましょうね」
「バカかお前」

恥ずかしそうに下を向くヒロさんがとても愛おしくて。そんな顔されたら……俺の理性のリミッターはすぐに外れてしまいそう。

「どうして欲しいですか?」
「……ッド……連れてけ」

凄く凄く小さな声だったけれど、しっかりと俺の耳には届いた。

「はい」

ヒロさんの頭の中が、俺だけでいっぱいになりますように。その為だったら、俺はあなたの為に何だってします。だからこの手を離さないで。

この先もずっと────。



END.


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