今日はヒロさんと映画を観に来ています。久々のデートだから、ドキドキワクワクしてます。 でも、すみません。 観たい映画があると言って、渋るヒロさんを連れ出したのは俺の方なのに、目の前のスクリーンではなく今あなたを見ています。 横顔を見ながら改めて思った。やっぱりヒロさんは綺麗だ。 どうしよう、今すぐあなたにキスしたい! ここは映画館だし、周りは暗い。大丈夫ですよね? わざとヒロさんの足元に携帯を落としてみた。 拾い上げながら顎に指をかける。 ほんの一瞬……触れるだけの軽いキス。もう少し触れていたかったけれど、怒ってるんだろうなぁ。しかもこんな場所で。 チラリと横を見てみれば案の定、眉間に皺をよせて険しい顔をしているヒロさん。暗くてよくわからないけれど、たぶん顔が赤いんだと思う。 そんなあなたは可愛いです。 もっと触れていたくて、左側に座るヒロさんの右手に左手を伸ばして繋いだ。 絶対に手を振り払われると思った。でも返ってきた反応が意外なもので、思わず顔が綻ぶ。 一度だけ指を絡めてきて、ぎゅっと握り返してくれた。それはすぐに離されてしまったけれど、嬉しくて嬉しくてたまらない。 映画はあっという間に終わってしまった。 内容なんて殆ど覚えていない。本当は映画なんてどうでも良かったんだ。 ただヒロさんと、デートっぽいことをしてみたかっただけ。こういう時間は久々だったから。 「おいコラ!てめぇーが観たいってゆうから来たんじゃねぇーか、全く観てなかっただろ!」 「すみません、ヒロさんが気になっちゃって……痛っ」 ヒロさんは俺の頭を叩くと、どんどん歩いて行ってしまった。 「あっ、待って下さいヒロさんっ」 「しかもあんな恥ずかしい真似しやがって!」 「ずっとヒロさんの顔を見ていたことですか?キスしたことですか?それとも……「バカ野郎!全部だっ!」」 顔を真っ赤にさせながら怒る様子が可愛いすぎる。もっと甘えてくれたらいいのに。 いつもそう思っているのだけど、現実にはそう簡単にはいかず。 「おい野分、さっさと帰るぞっ早くしろ!」 「ヒロさん、もう少し歩きませんか?」 「嫌だ、帰るっ!」 結局俺の希望は聞き入れてはもらえず、真っ直ぐ家に向かった。もう少しデートをしていたかった。 あっという間にマンションに着いてしまい、しょんぼりと部屋に入ると。 「お前のせいで時間無駄にしたじゃねーか」 ボソリとヒロさんが呟いた。 「すみません」 「そうじゃねーよ!家だったら二人で……もっとゆっくり……」 「え?」 「や、いい……何でもない」 ヒロさん、それって、それって……! 「おわっ!いきなり飛びつくなって!」 「今顔に抱きしめて欲しいって書いてありました!」 「書いてねぇよ !!」 俺はヒロさんを抱く腕に力を込め、キスをした。今度は映画館の時のような触れるだけのキスではなく、もっと深くて甘いキス。 「んっ……」 こんなキスだけでは全く足りない。もっともっとあなたが欲しい。 「いっぱい、イチャイチャしましょうね」 「バカかお前」 恥ずかしそうに下を向くヒロさんがとても愛おしくて。そんな顔されたら……俺の理性のリミッターはすぐに外れてしまいそう。 「どうして欲しいですか?」 「……ッド……連れてけ」 凄く凄く小さな声だったけれど、しっかりと俺の耳には届いた。 「はい」 ヒロさんの頭の中が、俺だけでいっぱいになりますように。その為だったら、俺はあなたの為に何だってします。だからこの手を離さないで。 この先もずっと────。 END. |