純情エゴイスト

□全ては貴方のため
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最近、野分の顔色が余り良くない。夜勤は多いし、急患でも続いたら、休む間もなくぶっ続けで働くことになる。
昨日も久々に顔を合わせたかと思えば、フラフラ状態で帰ってきて、何も食べずに寝てしまった。
完全に時間帯がすれ違い、顔を見れないことも少なくない。勿論こればかりは俺がどうこう出来る問題ではないので、せめて野分の負担を減らしてやるくらいしかなくて。
昼はちゃんと食べているのだろうか?その時間を取れるのかすら怪しいが、弁当でも作ってやろうと考えた。いくら忙しいとは言え、何も食べずに働き続けては身体がもたない。

翌朝短い時間でも食べれるようにと、おにぎりと簡単なおかずを作っておいた。
野分が起きてきたのは、いつもよりも30分遅い時間。少しでも長く寝かせてやりたかったから、あえて声をかけなかった。

「ヒロさん、おはようございます」
「おはよ、ちゃんと寝れたか?」
「はい、でもやっぱり疲れは取れませんね」
「お前大丈夫か?」
「これくらい平気です。それに明日はやっと休めそうなんで」

とても平気そうには見えなかった。それどころか、ヒロさんこそ大丈夫ですかなんて言って、笑った顔が痛々しい。

「ほら、これ持ってけ」
「え……おにぎりですか?」
「それなら簡単につまめるだろ?だから、ちゃんと食えよ」
「ありがとうございますっ !! 嬉しい、もったいなくて食べれないかも」

そう言って野分はギュウギュウと抱き付いてきた。もしもこいつに尻尾があったら、ブンブン振り回してそうだ。

「く、苦しいから離せっ!それぐらいで喜んでんじゃねぇーよ」
「だって、だってヒロさんが俺の為にっ !!」

まさかこんなに喜ぶとは思わなくて、些か大袈裟な感じもするが、悪い気はしない。

「もう分かったから早く行けって」

言い終えたと同時にチュッとキスをされて、じわじわと顔が火照り始める。

「なっ……」
「ヒロさん可愛いです、行ってきます」
「バカ野郎、可愛いとか言うな。とっとと行きやがれ」

意打ちのキスとか卑怯だろ。一瞬固まってしまい無理矢理追い出してしまったが、野分の柔らかい唇の感触は残ったまま。
本当は嬉しいくせに、ぞんざいな態度を取ってしまうのは、恥ずかしさから。どう返したらいいのか分からなくて、ついやってしまう。
あんなに喜んでくれるのなら、今度はもう少しまともなやつを作ってやろうか。そんなことを考えながら、俺も部屋を出た。


昼過ぎに携帯が震えて、メールの着信を伝えた。開いてみれば送信者は野分で。
『ヒロさん、すっごく美味しいです!』
誰に撮らせたのか(まぁ、想像はつくけれど)、満面の笑みでおにぎりを頬張る野分の写真までが添付されている。あいつ何やってんだ、そんな報告いらねぇっつーの。
それでも、ちゃんと食べてくれたことが嬉しくて、自然と顔が綻ぶ。

「上條、何かいいことでもあったのか?」
「はい?」
「顔がにやけてる。はっは〜ん、恋人からのメールか?」
「そんなんじゃないですよ」

慌てて携帯をジャケットのポケットに押し込め、顔を引き締めたが、教授は追及の手を緩めない。
この人が絡むと話がややこしくなるから、適当にあしらって、授業で使う資料整理に没頭した。
それにしても、弁当って何を入れたらいいんだ?帰りにレシピ本でも探してみるか。
困らない程度の自炊はしているが、人の為に弁当など作ったことがない。どうせ作るのならば、栄養が偏らないように、何よりも美味しく食べてもらいたいと思う。

こうして帰りは、レシピ本選びに小一時間悩む羽目となったのだ。

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