*加筆有り。 ◆side 羽鳥 目が覚めた時、自分の胸元がしっとりと濡れているのに気が付いた。 泣いている…のか? 「千秋?」 俺の腕の中にすっぽり収まっている愛しい者の名前を呼んでみるが、まだ眠っているようだ。 顔を覗き込むと、頬には涙の痕が残っていた。 そっと髪を撫でてやりながら涙の理由を探す。 こいつを傷付けるようなことをしたつもりなどないし、自分で言うのもなんだが寧ろかなり過保護だと認識している。 何故泣いている? お前に泣かれたらどうしていいかわからなくなるじゃないか。 小さく溜め息をつくと、ピクリと微かに腕の中で動きを感じた。 「トリ……」 今にも消え入りそうな小さな声は、俺の胸を締め付ける。吉野の目からは涙が溢れ落ち、再び頬を濡らし始めていた。 「起きたのか?」 返事は返って来なかったが、吉野の腕は俺の背中に回りギュッとしがみついてきた。身体は強張り、僅かに震えている。一体どうしたと言うのだ。理由がわからなければ、何もしてやれない。 「どうしたんだ?」 出来るだけ優しく問う。それでも頭を振るばかりで、会話にならない。 「言わなきゃわからないだろ?」 指で涙を拭ってやりながらそう諭す。 「トリが……」 「俺が何?」 「トリが、俺から離れていく夢……を見た」 「バカだなお前」 夢の話になるとは思ってもみなかった。でもそれは吉野の不安の現れ、と言うことなのか? 「俺はここに居るだろ?お前から離れたりしない」 「トリが居ないと……トリじゃないと、俺は生きて行けな……い」 「千秋……」 それは俺の台詞だ。生きて行けないのは俺の方。言っておくが、俺はしつこいからな? 少しでも不安を取り除けるように。これ以上不安にさせないように。 俺はお前に、何度も何度も口付ける。 だから、泣かないで。早く笑顔を見せて……。 俺はお前の笑った顔を見るのが好きなんだ────。 END. 20120121 蓮。 →side 千秋 |