人は何歳頃の記憶まで遡ることが出来るのだろうか?吉野とは生まれた時からずっと一緒に育ってきて、いろいろあったんだろうけど、ただ一つ確実に覚えていることがあって。 それは物心ついた時にはもう、俺はお前のことが好きだったということ────。 「なぁトリ、俺達って小さい頃どんなだっけ?」 「どんなって言われてもな……そんなの自分の親に聞いた方が早いんじゃないのか?」 小さい頃、ね。また何だってそんなことを聞いてくるのかは謎だ。 「それはそうなんだけど、トリは小さい頃のこと、どれくらい覚えてるのかなぁと思ってさ。」 「まぁハッキリ覚えてるのは4、5歳くらいからのことかな。」 聞けば、次の話で主人公の幼少期のエピソードを盛り込みたいと言う。 俺がお前との想い出を忘れるわけがないだろう?ずっと吉野、お前だけを見てきたんだ。それは大人になった今でも変わらない。 それから一週間程して、吉野の進行状況を確認するべくマンションを訪れたところ、一冊の分厚いアルバムを突きつけられた。 「これどうしたんだ?」 「ちょっと用があって実家に帰ったんだけど、親にいろいろ話聞いてたらアルバム出してくれたんだ。ついでに借りてきた」 『よしゆきっこれからもずーっと、一緒だからな』 『うん、ちあき大好き』 公園で遊んだ帰り道、二人手を繋ぎながら夕暮れの中でこんな言葉を交わしたこと、覚えていているか? あの時の約束通り、俺は今でも吉野の傍にいる。まさか、ずっと胸の奥にしまい込んできた想いを伝える日が来るだなんて思ってもみなかった。俺達の関係は昔とは少し変わったけれど、それは幸せなことでもある。 「こうやって見てると、どの写真もトリと一緒なんだよなぁ……よく飽きないよな、俺等。」 そう言って笑う吉野に少し複雑な気持ちになりながら、アルバムを捲っていく。 「この時ジュースを手に持ったまま転んで、お前大泣きしたよな」 「え〜、そうだっけ?」 「俺のを分けてあげたんだよ」 「そんなこと良く覚えてんな」 転んでしまった吉野に手を差し伸べながら、小さいながらにこいつは俺が守らなきゃ、って思ったんだ。 「まぁでもさ、俺はこの先もずっとトリと一緒に居るんだろうから、これからもよろしくってことで」 「えっ?」 「違うの?だってトリの居ない生活なんて想像できないし」 その言葉は俺の心を暖かくさせた。お前にとってはきっと、深い意味なんてないのかもしれないけれど、居場所を与えられたことが凄く嬉しくて。 「そうだな」 思わずお前を抱き締めずにはいられないんだ────。 END. *20120319〜20120608までお礼文として使用 |