お互い仕事に追われる毎日で、逢えば仕事の話をせざるを得ない。俺だって口煩く言いたくはないが、漫画家と編集者なのだからそれは避けて通れない事だ。 だからこそ。入稿を何とか終わらせて一息つけた今、こうやって二人きりで過ごせる束の間くらいは、思いっきり甘やかせてやりたいと思ってしまうのだが。 当の本人は決して回数は多いとは言えないけれど何度も身体を重ねていると言うのに、未だに甘い空気には慣れないようで。 同じベッドの上でこうして抱き締めながら眠る今も、こちらを向こうとはせず俺に背を向ける。 本当は顔を見ていたいのに。仕方がないので後から抱き締めている状態だ。 でもそれは俺の事を意識している証拠でもあり、それはそれで嬉しくもある。 「千秋、もう寝たか?」 「ん……起きてる」 どうやらまだ起きているらしい。身体を求め合ってこうしている時間は、俺にとって至福の時と言える。 どんなに仕事で疲れていようが、吉野に触れているだけでそんなものは何処かに行ってしまって、癒しを与えてくれる。 願いが通じたのかどうかはわからないが、背を向けていた吉野がクルリと方向転換し俺の胸に顔を埋めてきた。 「また締め切り破ってごめん」 「どうしたんだ?急に」 「俺、いつもトリの仕事増やすようなことばっか……」 「それが俺の仕事だ、気にするな。まぁ、締め切りは守るに越したことはないがな」 「仕事以外でも面倒ばかりかけてるし……」 そう言って、ぎゅっと抱き付いてきた吉野が何だかとても可愛く思えた。 「俺に何もさせない気か?好きでやってるんだよ」 「トリは、俺に甘過ぎる」 「そうか?」 髪に指を差し込むと、吉野は顔を上げて恥ずかしそうに小さく呟く。 「もっと……頭撫でて」 その時の吉野がまた可愛くて。望むままに、全てを与えてやりたくなる。 「それだけでいいのか?」 「キ……スも」 吉野はたまに、俺の心を掻き乱すような事を言い出す。無意識なのかただ単に甘えているのか。 どちらにせよ、こういったおねだりは大歓迎だ。 俺は優しく頭を撫で、口づけた。 END. *20120609〜20120919までお礼文として使用 |