過去拍手御礼文

□僕の心、君知らず
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「トリー助けてっ数学の課題全然解んない」

勢いよくドアを開け放ち、勝手に人の部屋に飛び込んで来たのは隣家に住む幼馴染みの吉野千秋。小さな頃からずっと一緒だ。

「勝手に入って来るな。数学なら放課後柳瀬に聞いてただろ?」
「そうなんだけどさ〜何てゆうか、トリの方が解りやすいんだよね。あ、これおばさんが持ってけって」

コップに注がれたジュースを二人分テーブルに置いて、床に座りかけたところで「あー!」と大きな声を上げ立ち上 がる。

「今度は何だ」
「教科書とプリント忘れた!」
「お前何しに来たんだよ」
「へへっ、取りに行ってくるっ」

慌ただしく部屋を飛び出す後姿を眺めながら、深い溜め息が漏れた。何であんな奴好きになってしまったのだろう。気が付いたら好きで堪らなくて、今ではこの想いを隠すのに必死な自分がいる。
吉野にとって俺はただの友達にすぎなくて、そんなことは充分承知。気付かれないように気持ちを押し殺し、何でもない風を装う。
幼馴染みの親友という関係が崩れて傍に居られなくなるくらいなら、このまま隠し通した方がいい。そう思っているのに、もう決めたはずなのに、心のどこかでは気付いて欲しいと願うこの矛盾。
好きになった相手が男で、その時点で報われるはずなどなかった。

胸が痛い────。

「お待たせ」
「で、どこが解らないんだ?」
「一問目からもうお手上げ」
「あのなぁ……、ちゃんと授業聞いていたか?公式を使え」

おまけにこのところ、吉野との間に割って入ってくる奴が現れた。柳瀬優、先月転校してきた奴の名だ。
柳瀬とは趣味が合うらしく、二人はすぐに意気投合した。もちろん友人は他にもたくさんいる。しかしあいつは他とは明らかに違っていて、何とも言えない焦燥感に襲われてしまう。
そんな胸の内を知ってか知らずか、吉野は思い出したかのように口を開いた。

「そう言えばさ、どうして今日先に帰っちゃったんだよ」
「お前は柳瀬と帰ると思ったから」
「何で?だって約束したじゃん、俺はトリを待ってたのに」
「え?」

あまりにも楽しそうに話していたから、俺は声を掛けずにそのまま帰ってしまったのだ。『トリを待ってたのに』その言葉が素直に嬉しくて、同時に安堵の思いで胸を撫で下ろす。

「ごめん、俺はてっきり……」
「も〜、明日は置いてくなよ?一緒に帰ろうぜ」

吉野はそう言って俺の頭をパシッと軽く叩くと、笑顔を見せた。まるで一緒に帰るのが当然かのように。
家が隣だから?幼馴染みだから?でも理由なんてどうだっていい、必要とされているのならただの「日課」でも構わなかった。
こんな関係をいつまで続けられるのかはわからないが、今はこの現状に満足している。
千秋が好き……この気持ちは、これから先もずっと変わらないだろう。


END.


*20121122〜20130323までお礼文として使用。


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