お題小説

□無防備にも程がある
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【トリチア】

「くしゅんっ」
「風邪でもひいたか?」
「んー、今日優と買い物行った時すげー雨に濡れたからさぁ。でも風呂借りたし平気だって」
「柳瀬?ただでさえ不規則な生活してるんだから気を付けろよ」
「不規則なのはお前も同じだろーが。それよりさ、結局パンダウォーリア行けなかったじゃん?DVD借りてきたから一緒に見ようぜ!」

やっと見れる、とはしゃぐ吉野を眺めているとある一点に目が止まり、顔を顰める。
な……んだ?それは。柳瀬と一緒だったということが、不安を煽り立てた。
吉野の首筋には、どんな所為で出来たのか明白な赤い痕が付いているのだ。

「吉野、お前……柳瀬にまた何かされたんじゃないだろうな」
「はぁ?ねーよ、お前が考えてるようなことはなーんもないから。優は友達だって何度も言ってるだろ?あーほら、トリの携帯鳴ってんぞ」

吉野にそう指摘され、携帯を手に取るとタイミングがいいのか悪いのか、柳瀬からのメールだった。


『無防備すぎてマジむかつく。
お前の躾がなってないんじゃねーの?
次はこれじゃ済まないからな。』


メールには、問題の首筋もよく見えるように撮られた吉野の寝顔写真が添付されている。

「あいつ!」

柳瀬のニヤリと笑った顔が目に浮かんだ。雨に濡れて風呂に入ったら寝込んでしまい、知らないうちにキスマークを柳瀬に付けられた、とまぁこんな所だろうか。そもそも、仮に何かされたのだとしたら、吉野が俺の前でこんな風に平静を装える筈がなかった。こいつはすぐ顔に出るからわかりやすい。

「どうした?仕事?」
「何でもない。なぁ、吉野……」
「何?」

俺は吉野を抱き寄せ、耳元で囁く。

「余り俺に嫉妬させるなよ」
「え?何それ、あっ……ん、トリっ」

首筋に残された痕を舌でなぞり、それを掻き消すように何度も吸い上げた。

「痛っ……」

そう言って吉野は俺のシャツを掴むが、悪いな、これをそのまま残しておくわけにはいかないんだ。唇を離せば、そこには新しい痕が刻まれた。

「ばっか……そんなとこにつけんなよ……」
「ごめん」

顔を赤くする吉野に一応謝りながらも、俺はこんなことを思う。
お前は、俺の付けたものだけ自覚してればいいんだ。
誰にも渡さない。



END.


→あとがき。

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