お題小説

□何度でも呼んで
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「優、伊集院先生のとこ行って来たんだろ?ねぇ、どうだった?」
「ナマ原稿は何回見ても感動するっ」
「いいなぁー俺も行きてぇー!」
「千秋は自分の仕事があるだろ?」
「そうなんだけどさぁー羨ましい!」

作業が一段落しアシの女の子達を帰した今、優と「ザ☆漢」の話で盛り上がっていた。
優も俺も大好きで、コミックスの話をすれば時間はいくらあっても足りないくらいだ。
中学の時に転校してきて偶然にも席が隣になり、趣味や好みが似ていてすぐに意気投合した。
それ以来、俺の良き理解者で大親友なのだが……トリはやたら優のことを煙たがる。好きだと言われてからは尚更だ。

「吉野、早くそこを片付けろ」
「あぁーごめんごめん、すぐやる」

すっかりコミックスで埋め尽くされたテーブルの上を慌てて片付けながら、トリの方をチラリと見ると眉間に皺をよせ険しい顔をしながら料理を皿に盛り付けていた。

「相変わらずお前は小姑みてーだな」
「お前に言われる筋合いは無い」

また始まった……。と言うかこの二人、顔を合わせればいつもこんな感じで、たちまち不穏な空気が漂う。もう少し穏やかに話せないものかと見ていてヒヤヒヤする。

「ゆ、優、佐藤先生のとこ行くんだったよな。ありがとう、いつもすげぇー助かるっ次も頼むよ」
「当たり前じゃん、千秋を優先するから早めに予定教えて」
「やっぱ俺、お前が居ないとダメだぁ。大好きっ」
「嬉しいこと言ってくれんな、抱き締めてやりたいとこだけど煩いのが居るしまた今度にするわ。じゃぁまたな」

そうやってわざとトリを刺激するようなセリフを吐きながら、優は部屋から出て行った。

二人きりになった部屋での気まずい雰囲気は、そりゃぁもう最悪で、トリは無言でテーブルに出来上がったばかりの食事を並べ始めた。
さすがに「大好き」はまずかったかな。軽率だったと思うけど、でもそれは「親友として」な訳で…優も意地悪だ、こうなるって分かっててあんなこと。

「なぁ、そんなに怒るなよ」
「別に怒ってない」

嘘だ、怒っているのは明白で、その証拠に先程からトリは俺と全く目を合わせない。
これもいつものことだが、一度こうなってしまうと機嫌が戻るまで時間が掛かってしまう。友達だって言ってるのに……。
確かに「好きだ」と言われたことはあるけれど、恋人として付き合っているのはトリの方で、そうゆう意味で好きなのはお前だけだ。
でも、あの時の優の目はちょっと怖かったかな。
とにかく。今では優にも俺達の関係はバレていることだし、自分さえしっかりしていれば何も問題は無い。だって俺はトリのことが大好きなんだから。

結局食事をしている間、トリは一言も口をきいてくれなかった。
まだ怒ってんのかよ。
久々に二人きりになれたのに、どうしてこうなってしまうんだろう。喧嘩なんてしたくないのに……。

「お前いつまで黙ってんだよ、何か言えって」
「早く食べてしまえ。片付かない」
「はぁ?今そんなことどーでもいいだろ?いつまでそうしてるつもりだよ」
「だったら……」
「だったら、何?」

そこまで言って、再びトリは黙り込んでしまった。言いかけた言葉が気になり問いかけてみても、「何でも無い」の一点張りで答えてはくれない。
もう俺のことが嫌になった、とか?自分の普段の行いを思い返してみれば、いつ愛想を尽かされてもおかしくないだろう。
これ以上どうすることも出来ず、俺はシャワーを浴びる為バスルームへと向かった。頭をフル回転させてあれこれ考えたところで、やっぱりただ謝ることぐらいしか思いつかない。
はぁ……。どう考えても、俺がダメ過ぎる気がする。

部屋に戻ると食器は綺麗に片付けられていて、トリはリビングのソファーでビールを飲んでいた。
ローテーブルには、既に空になった缶が何本も散らばっている。俺がシャワーを浴びている間にこんなに空けたのか?

「おい、ペース早過ぎだろ」

更に新しいプルタブを引き、口に運ぼうとするトリの手から缶を取り上げる。
もともと酒には強い奴だけど、こんな飲み方をするのは珍しい。

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