お題小説

□とろけるLovey-dovey
1ページ/3ページ


「ちょっと待った!」
「何だ?」

勘違いでなければ、トリが急に顔を寄せてきてキスされそうになった……と思うんだけど。
時刻は夜の10時半を回ったところ、いつものように食事を作りに来てくれて、それを食べ終わり今は、連載作品の今後の展開について相談をしていた。
それがどうしてこうなったのか。
確かに目は合ったけれど、でもそれは、物凄く見られている気がして俺が顔をあげたからだ。

「は?それはこっちのセリフだって、つーか今、そんな流れじゃなかっただろ?」

近すぎるトリの胸を突き返し、身体を離したらあからさまに得心のいかない顔をされた。

「……何だよその顔はっ。俺、変なこと言ったかよ。だいたい、ムードってもんがあるだろっ!そんないきなりエロい気分になれるかっての、簡単に頭切り替わんねぇよ」
「フッ…まさかお前に言われるとはな」
「どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だよ。わかった。要するに、お前をその気にさせればいいんだな?仕事は終わりだ。まだエピソードが弱いが、大まかな流れはそれでいいと思う。資料を集めておくから、また後日詰めていこう」

その気にさせればって、何言ってんだコイツ。一方的に仕事は打ち切られて、思ってもみなかった言葉に内心焦りまくる。
でも俺を見る目は冗談の類いではなく、いつも惑わされてしまうあの目をしていた。
俺を抱こうとする時のあの感じ、捕食者のそれ。
これを向けられたら逃げられる気がしないのに、無駄に抗うのはどうなんだろう。分かっているのに、往生際が悪いのが俺なんだから仕方ない。

「さっきのなし、ごめ……冗談」

このあとの展開を考えれば自己防衛とでも言うべきか、条件反射的に背を向けた。けれど、毎度のことながらそれが成功することはなく、今回も例外ではないらしい。
あっさり腕を掴まれ、引き戻されて。

「逃げるな」
「に、逃げてねーし。何か飲み物……」
「あとでいい」

トリは俺の言葉を遮り引き寄せると、ソファーに座らせて自分も隣に腰を落とした。
ヤバイ、凄く緊張する、あんなこと言うんじゃなかった!
俺とは対照的に、涼しい顔をしたトリが恨めしい。
ドクドクと早鐘を打つ鼓動を何とかしたくて、この状況にそぐわないことをあれこれと想像してみる。が、それも長くは続かなかった。

「千秋」
「はいィ」
「そんなに警戒されると傷付くんだけど」

緊張のあまり声が裏返ってしまった。
そんなこと思ってもいないくせに……。その証拠にトリの口許は弧をえがき、笑みを称えている。
ジッと見つめられながら名前を呼ばれたら、誰だってドキリとするに決まっているだろ。
惚れた欲目を差し引いても、いい男には違いないし、何気にこいつは昔からモテる。
トリの指が頬に触れそうになり、咄嗟に瞼を閉じた。頬をひと撫でされたあと、顔を両手で覆われたのが分かる。大きな手が少しずれて、耳を塞がれた。
何をされるのか不安もあるけれど、それ以上に緊張がピークに達し、更に心拍数が上がる。

「肩の力を抜け」
「近いってば」
「今からお前をその気にさせなきゃならないんだから、当然だろ」
「そう……だけど……」

コツリと額をくっつけながらそう言われて、力を抜いた瞬間、柔らかなものが唇に押し当てられた。
他に気を取られていたせいか、あっと言う間に歯列を舌で割られて、口腔を蹂躙される。
角度を変えながら幾度となく繰り返されるキスに、俺はただ成すがままで。おまけにトリは、わざと音をたてながら吸い付いてくるからタチが悪い。
耳を塞がれているせいで、卑猥な水音がダイレクトに脳内へと響き渡った。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ