お題小説

□とろけるLovey-dovey
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「や……ん、ふっ……」

耳を犯されるような感覚は完全に俺の思考を揺さぶり、頭の中がぐちゃぐちゃに溶けだす。
堪らずトリの両手首を掴んだけれど、その手には全く力が入らず拘束力がない。ただ自分の熱を伝えただけだ。

「は…ン……」

もう、頭の中がおかしくなる──。
いつもとは違うキスに身体がぶるりと震え、肌が粟立った。
何度もトリとキスをしてきたけれどこんなのは初めてで、自分でも恥ずかしいくらい甘い声が漏れてしまう。

「はぁっ……ァ……ン」

身体中が熱くて、芯が疼き始める。呼吸を奪い尽くすような長いキスが、俺をトリ一色に染め上げて、もっともっと、と貪欲にさせる。
掴んでいた手に思わず力が入った。

「その気になったみたいだな」
「はっ、ァ……うるさいっ」

全てを見透かされたみたいで悔しいけれど、もっと触れていて欲しくて、羞恥よりも先に身体が動いていた。
俺は縋るようにトリの服を掴んで、口の端にちゅっと触れるだけのキスをした。
恥ずかしすぎて顔を見ることが出来ない。でも、意思表示は必要だと思ったから。
けれど、これではいつもと同じ。そう思い今度は深く口づけて、自分から舌を差し出してみた。薄く目を開けるとトリは目を開けたままで、お互いの視線が絡む。

「バカ……目ぇ閉じろってば」
「仕方ないだろ、いきなり唇奪われたんだから」
「いきなりなのは、いつもトリの方じゃん」
「そうか?」
「そうだよっ!」

トリは目を細めてクスクスと笑う。バカみたいだけど、ほんの一瞬、トリの困惑した顔を見れたから気分がいい。いつもされるばかりじゃ悔しいから、三度目のキスを仕掛けてやる。

「今日はやけに積極的だな。で、どうする?」
「どうするって……俺は別に……」

どうしても言わせたいらしい。もう分かりきっているくせに、意地悪な言い方をする目の前の男は随分と楽しげだ。
何がムカつくかって、俺が絶対に逃げないのを知った上での「どうする?」である、ということ。
そして更に、そこまで分かっていながら俺自身が嫌だと思っていないことが、ヒジョーに問題なのだ。

「ここじゃヤダ」
「分かった」

結局はこうなるのだから、始めから流されておけばいいのにって、自分でもそう思う。きっと何をされても拒めない、相手は大好きなトリだから。
普段厳しいことを言うトリも、俺に触れる時は優しすぎて、痛いくらいにきゅんと胸を締め付けられる。
だから未だに甘い雰囲気は苦手だし、今後もこれに慣れる日が来るのかどうか。こればっかりは俺にも分からない。

「千秋」
「やっ……、耳はダメっ」

耳許で囁いてきたのはきっと意図的にだ。耳を塞がれていた時のあの音が鮮明に甦って、また身体が甘く震えてしまう。自分の吐息と、唾液と、いやらしく唇が合わさる音。
それはトリの思惑通りに作用し、ドクドクと鼓動が鳴り響いた。

「そんなに気持ちよかったか?」
「……るっさい」

図星を指されて顔に熱が集中する。もうどれだけトリのことを好きなんだか。
俺はこのあと、それを嫌って程再認識させられた。


Lovey-dovey



END.

→あとがき。

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