世界一初恋

□眠れない夜
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時計の針は午前0時を過ぎていた。雑用が溜まりに溜まって、もう3日連続で帰りが午前様だ。
さすがに体がキツイ。幸い明日は休日なので、久々に十分な睡眠をとることが出来るだろう。
本当のところ、ここ最近は疲れているはずなのになかなか眠りにつけていなかった。
理由はわかっている。小野寺律、お前のせーだ!
ビールでも飲めば少しは寝れるかもしれない。俺は足早に会社をあとにした。
マンションに着くと自宅の玄関前で足を止め、隣の部屋に目をやる。小野寺はまだ起きているだろうか?寝ていたら起こすまでだ!
そう勝手なことを考えながら、インターフォンを鳴らした。反応がないのでもう一度鳴らしてみる。

「俺だ、開けろっ!」

ガチャリ。

「高野さん、近所迷惑です!静かにして下さいっ」

チェーンをしたまま、ドアの隙間から眉間に皺をよせた小野寺が顔を出した。

「だったら早く中に入れろ」

以前もこんな状況があり、少しは学習したようだ。小野寺はすんなりとチェーンを外した。

「こんな時間に何の用ですかっ」

ちょうど寝るところだったのか、小野寺はスウェット姿だった。

「おいコラ!お前、会社に書類忘れてっただろ!」
「あっ !!……わざわざすみません」

俺は小野寺に書類を押しつけると、靴を脱ぎ捨てズカズカと部屋に上がり込み、上着を脱ぎコンビニで買ってきたビールをテーブルに並べた。

「ちょっ……何してんですか、用が済んだらとっとと帰って下さい」
「最近寝付きが悪いんだ、ついでだ、ちょっと付き合え」
「……飲んだら帰って下さいよ?」

そう言うと小野寺は渋々ビールを手に取り、プルタブに指をかけた。
いつもの沈黙。好きなのに……聞きたい事がいっぱいあるのに……どうしていいか分からず黙りこんでしまう。
どうしたらお前にこの気持ちが伝わる?
どうしたらお前は俺を受け入れる?
いつも誤魔化されてばかりだ。抵抗するわりには、それを完全に押しきるわけでもない。
本人の口から確かな言葉が欲しい。気が付くとそんな事ばかりを考えてしまう。
でも、こいつ素直じゃねぇし。

「はぁ……」

思わず溜め息が出た。

「どうしたんですか?何か悩みでもあるんですか?」
「あぁ、悪ぃ……ちょっと考え事」



さっきまで迷惑だの帰れだの言ってたくせに、今度は心配そうな顔を向けてくる。そんな顔するな、キスしたくなるだろーが。
俺ははビールを片手に小野寺の横に座り直し、クシャリと前髪に触れた。

「ちょっと疲れているだけだ」

肩をビクリとさせている小野寺に、顔を近づけそのままキスをした。

「た、高野さんっ !!」

唇を離すと小野寺は顔を真っ赤にさせて目を泳がせる。またその顔……。
それが俺を煽ってるってこと、少しは自覚しろっての。だから期待してしまう、完全に拒否されているわけではないから。

「何?足りない?」
「違っ……誰がそんなこと!」

小野寺は頬を赤く染めたまま、気まずそうにビールを口にした。俺も黙ってビールを飲み干す。
このまま理性が保てるだろうか、まぁ無理だろうな……強引に抱いてしまう?さてどうしようか。

「おい、小野寺。寝るならベッドにしろっ」

気が付いたら小野寺はウトウトし始めていた。最近仕事が立て込んでいたし、疲れているのだろう。雑用に追われていて、あまり面倒も見てやれなかった。

「あ……すみません、高野さんももう寝た方がいいですよ。最近ずっと帰りが遅かったですよね?」
「お前何で知ってんの?」
「足音とか……玄関開ける音とか?隣に住んでるんですから、嫌でも分かるんですよ」

伏し目がちに告げられた言葉に、胸がきゅっと締め付けられる。小野寺は俺が帰るまで起きていたのだ。しかし隣だとはいえ、気にしていなければ気付かない。

「ご心配、ありがとうございます」

まさか心配されていたとは思わずに、顔が自然と綻んでしまう。

「ご、誤解しないで下さい!たまたま起きてただけだし、体調崩して会社休まれても困るんでっ」

あれこれと言い訳を口にするコイツがあまりにも可笑しくて。素直じゃないけど可愛い奴。大丈夫、俺は愛されてる。

「律、一緒に寝たい」
「は?何言ってるんですか?自分の部屋で寝てくださいっ」
「やだ」

俺は慌てふためく小野寺を無視し、腕を掴んで寝室へと向かった。そして華奢な身体をベッドの奥に押しやると、自分も布団に潜り込む。

「おやすみ」
「ちょっと、何勝手に……」

小野寺の心拍数が上がるのが分かった。もちろん自分のドキドキも止まらない。

「大人しく寝て下さい!へ、変なことしないで下さいよ!」
「変なことって何?」

くるりと背を向けた小野寺を、しっかりと抱き込んで首筋にキスを落とせば、甘い声が溢れた。

「だ……から、そういうのやめて下さい」
「じゃぁ、嫌だったらちゃんと抵抗しろよ?その時はやめる」

その後も嫌だと言いながら、俺に好き勝手されている。お前だって男なんだから、振り切れるはずだ。それをしないってことは、そういうことだろ。
今日もまた、眠れそうにない。


END.


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