世界一初恋

□君には敵わない
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久しぶりに仕事が早く片付いたので、吉野に食事でも作ってやろうと食料を買い込んだのはいいが、些か買いすぎたか?
普段ろくな物を食べていないであろう愛しい恋人の栄養面を考えるとついつい買いすぎてしまう。
これではまるで、あいつの母親みたいだ。
1人苦笑いを浮かべながら合鍵を使って部屋に入ると、あらかじめ電話を入れておいたせいか、吉野が出迎えてくれた。

「お帰りぃー!」

吉野は何故かご機嫌で、屈託のない笑顔をこちらに向けると、俺が手にしていた食材の袋を掴んでキッチンへと向かった。
どんなに仕事がキツイ日でも、こんな顔を向けられると一気に疲れも吹っ飛んでしまう。惚れた弱味だとはいえ、我ながら単純だと思う。
出来れば、これからもずっと吉野の傍に居たい。先のことなんてわからないけれど、そう願わずにはいられなかった。
そんなことを考えながらぼんやりしてると、吉野が声をかけてきた。

「トリ、先風呂入る?」
「お前腹減ってるだろ?すぐ作るから待っていろ」

そう返すと、休む間もなく作業に取り掛かった。

「うまーーい !! やっぱトリの作る飯大好き、サイコー!」
「お前また痩せたんじゃないか?」
「大丈夫、トリが作ってくれる飯食ってればすぐ戻るって」

吉野は一気にお皿を空にしていった。
少々複雑ではあるが、喜んで貰えるのは嬉しい。自分が居ない時でもちゃんと食べてくれるといいのだが。
人の心配をよそに、吉野は冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを2本取り出すと、1つを俺に差し出し美味しそうに飲み始めた。

「そうだ!なぁトリ、この原稿終わったら温泉行かね?」
「温泉?どう考えても無理だろ。毎回デッド入稿だし、来月も原稿はあるんだぞ?」

たまにはゆっくりさせてやりたいとは思うが、ここで甘やかすわけにいかない。毎回やっとの思いで入稿してるのに、そんな余裕がどこにあると言うのだ。

「それなら大丈夫!今回めちゃくちゃ調子がいいし、ぶっちぎりの1番で原稿上げてやるよ」
「バカかお前、いつも最初だけだろ?いい加減学習しろよ」
「そんなのやってみなきゃわかんねぇだろ?締め切りは絶っっ対守るからさ」

吉野は上目遣いで必死に懇願してきた。この目には弱い。
もちろん行きたくないわけではなくて、吉野と一緒ならば何処でも楽しいんだと思う。

「ねぇ、お願いっ」
「……わかったよ、締め切り守れたらな」
「やった!わかってるって、約束は絶対に守る」

やる気を出しているところ申し訳ないが、経験上締め切りを守れるとは思えない。が、これでモチベーションを上げて少しでもやる気になってくれるといいのだが。
吉野はというと更に上機嫌になり、アルコールがかなり進んでいるようだった。空になった缶がテーブルに散らばっている。

「吉野、もうそれくらいにしておけ」
「えー大丈夫だって、酔ってねぇよ」

そう言いつつも、すでに顔が真っ赤になっていた。ビールの缶を取り上げるべく手を伸ばすと、吉野はそれを阻止しようと抵抗する。

「トリ、やめろって、溢れる」

缶は吉野の手をすり抜け床に転がった。タオルを取りに行こうと立ち上がったものの、足がかなりフラついている。

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