世界一初恋

□星空デート
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やっと仕事が終わった。
今日は帰ったら、ずっと手つかずになっていた宇佐美先生の新刊を読むつもりだ。本屋で他の新刊もチェックしておこうか?
そんなことを考えていると、後ろから声がかかった。

「小野寺、帰るぞ」
「本屋に寄るんで先に帰って下さい」
「却下!」

何だと?俺にも予定ってもんがあるんだ。わざわざ一緒に帰らなくても帰る場所一緒なのに……。ただのお隣さんだけれど。

「は?勝手に決めないで下さい!」
「いいから早く!」

結局この日、本屋に行くことは叶わなかった。まぁいい。でも高野さんの部屋に連れ込まれるのだけは、何とか避けたい。何で部屋が隣なんだ!

「お疲れ様でした、お休みなさい」

急いで鍵を開け、さっさと部屋に入る……筈だった。
あろうことか、高野さんは閉めようとしたドアに足を挟んできた。

「何やってんですか?」
「厚着してこい、出掛けるぞ」

一応抵抗してみたものの、今俺は高野さんの車の助手席に座っている。
いつものことだが、この人は何でこうも強引なのだ。人の意見なんて聞きやしない。

「で、こんな時間に何処に行くんですか?」
「内緒」

先程からいくら聞いても、行き先を教えて貰えない。人を拉致しといて、内緒ってどういうことだ?
ただ1つ分かっていること。それは、どんどん都心から離れているってことだけだった。
どれぐらい時間がたっただろうか。いつの間にか寝てしまっていて、時計を見ると日付が変わっていた。

「すみません、俺寝ちゃって……」
「いいよ、もうすぐ着くから」

辺りを見回すと賑やかなネオンは一切無く、街灯が疎らにあるだけで随分と寂しげな所だった。
高野さんは俺をこんな所まで連れて来て、何をしようとしているんだろうか。いくら考えても、さっぱり分からない。
更に15分程走ると、車が止まった。

「ほら、行くぞ?」
「えっ?外に出るんですか?!」

外に出たものの、特にこれといって何もない。近くに林があるだけだ。

「寒っ!高野さん、風邪ひきますって」
「だから厚着してきたんだろ?」

高野さんは俺の手を握り、どんどん暗がりへと歩いて行った。寒かったけれど、絡めた指だけが温かくて……俺はその手を振り払うことが出来なかったんだ。


「あの、何も見えないんですけど」
「懐中電灯持って来たから大丈夫。足元気を付けろよ」

何だ?何があるんだ?
途中少し狭くなった所を通ると、急に開けた場所に出た。

「ここ」
「えっ?」
「う、え」

高野さんに上を見るように指示され見上げてみると、夜空には無数の星が散りばめられていた。

「綺麗……」
「だろ?お前と一緒にどうしても見たくてさ」

星を眺めるだなんて、いつぶりだろう。普段時間に追われていて、夜空を気にするような余裕なんて無い。
たまにはこういう気分に浸るのもいいかもしれない。
腰を下ろすと、2人で再び星を眺めた。そして暫しの沈黙。
先に沈黙を破ったのは高野さんの方だった。不意に名前を呼ばれる。

「律……」
「何ですか?」

星に気を取られていたせいか、完全に無防備だった。顔を向けた瞬間、唇が重ねられていた。そのまま舌を絡め取られてしまったけれど、全く反応出来ない。寒さでその舌が酷く熱く感じられた。

「ん……」
「今日は抵抗しないのな」
「べ、別にっ……寒くて体が思うように動かないだけです、から」

何でだろう、寒いのは本当のことだけれど。この綺麗な星空に惑わされてるだけなんだ、きっと。

「今日見れるといいんだけどな」
「まだ何かあるんですか?」

高野さんは何のことを言っているのか、意味が分からず視線を上に戻してみた。

「「あっ !!」」

声を上げたのはほぼ同時だった。明るい光の筋が、立て続けに流れるのが見える。ほらまた!
暫く2人並んで寝そべって、その光を眺め続けた。

「獅子座流星群。これをお前に見せたかったんだ」
「うわぁ……初めて見ました!こんなにハッキリ見えるんですね」

放射状の光はとても神秘的で、もう既に何個か見れた。

「10年前はもっとすごい量が降り注いだんだ」
「高野さん見たんですか?」
「あぁ。凄く綺麗でさ、今年は週末と重なったし、律と2人きりで見たかった。まぁ今回は数がかなり少ないけどな」

それでわざわざこんな所まで?2人きりでって……確かにここには誰も居ない。
人が来ないポイントを探してくれた?
そう思ったら胸が締め付けられて、ドクドクと鼓動が速まる。

「連れて来てくれてありがとうございます!」
「どういたしまして」

高野さんがあまりにも優しく微笑むから、恥ずかしさでなかなか視線を合わせることが出来ない。
────俺はやっぱり、あなたが好きです。
素直に認めるのは悔しいから、口に出してあげないけれど。


────ありがとう。


END.


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