世界一初恋

□素直になれなくて
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最近高野さんの様子がおかしい。
ん、あの人はいつも変か……。でもいつものそれとは違って、イライラしてるような。カルシウム不足?
そう言えば先週、井坂さんに呼ばれてたっけ。
ってことは仕事のことかな。
とにかく理由はわからないけれど、だからって俺を苛めるのは止めて欲しい。
だいたい大人気ないだろ!

「小野寺、何だこれ。お前やる気あんの?やり直し!」

ほらきた!確かにまだ経験不足で仕事も遅いし、そんなの言われなくてもわかってる。
俺だって努力はしてるし、やることはちゃんとやってるつもりだ。
なーのーにー。
何で俺だけ仕事2割増しなわけ?

「あれ?律っちゃんまた居残り?頑張れ、新人」
「小野寺君も大変だね、お先に」

後ろから声をかけられ振り向くと、木佐さんと美濃さんが帰るところだった。

「ありがとうございます、さっさと片付けて帰りますから。お疲れ様です」

あとは羽鳥さんと高野さんと俺の3人だけ。
羽鳥さんと言えば、先程から電話で何やら揉めているようだ。相手は吉川先生かな?
そんなことより自分の仕事だ!早く終らせて帰りたい。

「小野寺。悪いな、先に失礼する」
「羽鳥さん、揉めてるようでしたけど大丈夫ですか?」
「あぁ、今から吉川千春をシメてくる」
「そ、それは大変ですね。お疲れ様です」

そのわりには嬉しそうな顔をしているのは何故だろう?羽鳥さんもよくわからないな。
ん、待てよ?羽鳥さんが帰るってことは、高野さんと2人きり?
ヤバイ、全っ然集中出来ない!
その原因を作っているのは、先程から痛い程に感じるこの視線のせい。言うまでもなく、その視線を浴びせるのは高野さんであって。
何なんだよ!言いたいことがあるなら言えばいいだろ?監視なんかしなくてもちゃんとやりますから!
チラリと目線を上げると、自分の机に座っていたはずの高野さんの姿がない。

「わわっ、ちょっと!ビックリするじゃないですかっ!」

高野さんは隣の木佐さんの机から椅子を移動させて俺の隣に来ると、髪に触れてきた。

「で、いつ終わんの?」
「えっと、あと少しで」

だからっ、そんなに見るなってば!顔が赤くなるのが自分でもわかった。バカじゃないのか、自分!何ドキドキしてるんだ。ちょっと触れられただけだろ。
昔からそうだった。先輩が傍にいるだけでドキドキして、どうしようもなく胸が苦しくなってしまって。
そんな昔の話はどうでもいい。

「あっ、ちょっとトイレに」

俺は慌てて席を立ちトイレに逃げ込んでしまった。バシャバシャと顔を洗ってみたけれど、火照りはおさまらない。

「はぁ……最悪だ……」

恐る恐る編集部へ戻ると、高野さんが物凄い勢いでこっちに向かってきた。

「あーもう限界!」
「な、何っ?」

何が何だかわからず戸惑っている俺を無視し、高野さんは顎を掴み強引に上を向かせてきた。気が付いたら唇を奪われていて。

「んっ……ふっ……」

舌を絡められてキスはどんどん激しくなっていく。息が苦しくて顔を横に向けたくても、高野さんの手によって阻止された。それでも何とかその手を振り切る。

「いきなり何するんですかっ!誰かに見られたら……「帰るぞっ」」

は??人の話を最後まで聞けよっ!ムカつくムカつくムカつく!

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