世界一初恋

□イヴの夜は
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高野さんと律っちゃんが付き合い始めた設定です。




12/24それは高野さんの誕生日、世間ではクリスマスイヴとも言う。プレゼントどうしようか。
高野さんが欲しい物って何だろう?これについては、前もってずっと考えてきたはずなのに。気が付いたらその日は1週間後と迫っていた。
仕事が忙し過ぎることもあるけれど、そんなことを理由にこの一大イベントに手を抜きたくはない。せっかくプレゼントを用意するのだから、どうせなら喜んで貰える物を渡したいと思う。
それとなく聞いてみようか。
いや、それだけは絶対にしたくない。でもやっぱり、欲しかった物を貰えた方が嬉しいよな。
なんと言うか、サプライズ要素があった方がいいに決まってる。
俺はプレゼントには悩んでいるものの、付き合ってから始めてのイベントにテンションが上がっていた。
高野さんも同じ気持ちだといいのに。

この時期は寒くて毎朝起きるのがツライ。


『俺ん家で寝ればいつでも起こしてやるのに』


恋人である隣人はそう言うけれど。
って、そんなことできるわけないじゃないか!きっと緊張して眠れやしない。今日も眠い目を擦りながらドアを開けた。
同時に隣のドアも開く。

「高野さん、おはようございます」
「オス、今日も寒ぃ〜な」

高野さんとは何故か部屋が隣同士だ。付き合い始めてからは、一緒に出勤することも増えた。
初めはいつ引っ越そうかと、そんなことばかり考えていたのに、今ではそんな思いはどこかへと消えてなくなってしまった。

「律、ちょっと」

挨拶するなり腕を掴まれ、高野さんの部屋へ引きずり込まれる。

「な、何っ?」

意味がわからず呆然とする俺をドアに押さえ付け、高野さんはキスをしてきた。

「んっ……ふ……んっ」

いきなりのそれに、迂闊にもドキドキしてしまって、顔が赤いのが自分でもわかった。

「何の……マネですかっ
「何って、行ってきますのチューだろ?」
「は?俺も仕事に行くんですけどっ!」

朝から高野さんを意識し過ぎてしまうから、こうゆうのはやめて欲しい。もっと触れて欲しくなって、きっと仕事どころじゃなくなってしまうから。
恥ずかしすぎるから、絶対に言えないけれど。

「いちいち細かいこと言うな。さ、行くか」

丸川書店エメラルド編集部、通称乙女部。ここが俺の職場。
朝からあんなことをしてきた高野さんも、ここでは上司だ。仕事面ではとても厳しいけれど、頭の切れる人だ。彼の言う通りにしていればまず間違いない。
全てが的確で、俺の理想とすることを簡単にやってのけるから尊敬していたりする。気が付いたら、高野さんを目で追ってしまっている自分がいた。
やばっ……目が合った!!
慌ててキーボードに目を落とす。

「小野寺!頼んでおいた資料、まだ揃わねぇーの?」
「あ、全部揃ってます!」
「出来てんならさっさとよこせ」

この忙しい時に、プレゼントのことですっかり忘れてるなんて!

「遅くなってすいません」

急いで資料を高野さんに手渡すと、クスリと笑いながら耳打ちされた。

「誰がっ……!違いますっ!!」

かぁっと顔が熱くなる。果たして、こんな状態での抗議に効力があったのかどうか。説得力も何もなかった気がする。これでは単に高野さんを悦ばせるだけだ。現にこのニヤけた顔!

『あんまり物欲しげに俺を見るな、したくなる』

何だよ!誰が物欲しげに見たって?そんなことするわけないじゃないかっ!そう思ってはいるものの、耳許で囁かれた所為で胸がざわついていた。どうしてくれるんだよ……と、とにかく。
今は時間が欲しい!このままじゃ、買いに行く時間すら危ういのだ。



12/23、誕生日前日────。

年末進行とは恐ろしいもので、毎回エメラルドは修羅場だけれど今回はいつにも増して酷かった。

「「「終わった〜!」」」

木佐さん、美濃さん、羽鳥さんが一斉に声を上げていた。何で毎回デッドなのか、たまには余裕を持って……って無理だよな。

「やべっ、もうこんな時間!みんなお疲れっ」

恋人と待ち合わせでもしているのか、木佐さんが慌ただしく荷物を纏めて走り去って行った。
俺も早く帰ろう。当然の事ながら、プレゼントの用意が出来ているはずもなく。
取り敢えず早く探しに行かなくてはいけない、誕生日は明日なのだから。
見て回っているうちに、何か見つかるかもしれない。いつもだったら高野さんに捕まって一緒に帰るところだけど、今日はそういうわけにはいかなかった。
電話中の高野さんに見つからないように、静かにエレベーターへと向かい外に出る。

街中は恋人達で溢れかえっていた。クリスマスの電飾があちこちに施されていて、イルミネーションが眩い。
何がいいだろう。
あちこち見て回っているうちに、ある物に目が止まった。これがいい!高野さんに似合いそうだ。
綺麗にラッピングをしてもらい、良い物が見つかったと安堵しながら、その場をあとにした。一時はどうなるかと思ったが、何とか間に合わせることができて本当に良かった。

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