世界一初恋

□ただ一緒にいたいだけ
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「えー、また?今日は絶対大丈夫って言ってたじゃん!」
『仕事なんだから仕方ないだろ?無理言うな』
「もういい、トリのバカッ!」

週末の今日、少し前に新しく出来たショッピングモールへ買い物に行くことになっていた。オープン当初、特集が組まれた雑誌を見ながら「行ってみたいなぁ」と、殆ど独り言に近かった俺の言葉をトリが覚えていて、次の休みに行ってみようということになったのだ。 なのに当日になってこのザマだ。電話も、もう時間がないからと言って一方的に切られてしまう始末。
ムカツク!
俺は携帯をソファーに投げつけていた。
仕事だと言われたら、俺だってそんなことで機嫌を損ねる程非常識ではない。じゃぁ、何なのかって?
これで3回目、3回連続キャンセル!お陰様で記録は更新中だ!
トリが忙しいのは良くわかっているから、俺との約束よりそんなに仕事が大事なのかよ、なーんて馬鹿げた台詞は言うつもりなんて無い。おまけに副編集長という肩書きを持つトリは、他の編集者より仕事量も多いだろう。でも、それとこれとは話は別。今日こそは一緒に過ごせると思っていたのに。

正直、ショッピングモールなんてのは出掛ける為の口実であって、そんなのはどうでも良かった。もともと俺の何気ない一言で始まったことだ。人混みも苦手だし、別に欲しい物があるわけでもない。問題は最近トリと外に出るようなことが無くて、普通の恋人達がしているような、いわゆるデートらしきものをする時間が全く無いということ。
トリはどう思ってるんだろう。
気にしているのは自分だけなのかもしれない、なんて考えたら少し寂しく思えた。とにかく。あんのワーカホリックめ、凄く楽しみにしてたのにっ!
あぁーつまらない。
そうだ、優を誘ってみようか?
ソファーに転がる携帯を手に取り、電話をかけようとしたけれど再び放り投げた。
何やってんだ、俺!トリじゃないと意味がないのに。
こんな時は寝てしまうに限る。
ノロノロと寝室へ向かってベッドに潜り込み、寝転がるものの、胸のもやもやが消えることはなかった。


*


「んーよく寝たぁ」


気が付いたら本当に寝てしまっていて、すでに午後3時を過ぎていた。

ガチャリ。

玄関のドアが開く音が聞こえる。誰なのかなんてすぐにわかった。鍵を開けて中に入って来れるのはトリだけだ。何で寝室だってわかるんだよ。足音はこちらに向かってきている。

「吉野、ずっと寝てたのか?」
「しょうがねぇだろ?急に暇になっちゃったんだから」

俺は布団の中でクルリと向きを変えて、トリに背を向けてみた。そんな小さな反抗。

「今日は本当に悪かった…と言うより今日も、だよな。だからこうして早く切り上げて帰って来たんだ、こっち向けって」

そう言いながら、ベッドに腰を下ろし俺の頭に手を乗せてきた。

「そう拗ねるなよ」
「拗ねてない」
「吉野……じゃぁ何なんだ?頼むからこっち向いてくれ」

普段は俺の考えてることなんて全てお見通しなくせに、何でわかんねーんだよ! 渋々身体を起こしトリの方に目をやる。

「お前は……平気なのかよ」
「何が?」
「だから……」

乙女モード全開になってしまっている自分が恥ずかしいけど、このまま言わないでいるのは何だか嫌だった。

「最近休みが潰れる…だろ?や、トリが忙しいのは充分わかってる。でもたまには一緒に出掛けたいなーとか、思ってみたりして?仕事だからしょうがないんだけど……えっと、その…トリは、こうゆうの続いても平気なのかなーとか、さ。あー、いや、違っ、そうじゃなくって…て何てゆーか、あの」
「要するに、俺に構って貰えなくて寂しかったってことか?」
「はぁ?誰もそんなこと言ってねーだろ?つーか、何で俺がこんなこと言わなきゃならねーんだよ!」

ぜーんぶお前が悪いんだっ!俺はすぐ近くにあった枕をボスッとトリの顔に押し当てた。
何嬉しそうな顔して笑ってんだ、こいつは。

「なんだよ、笑うな」
「吉野がそんな風に考えてくれていたことが嬉しいんだ。来月休みを取ったから、今度こそ出掛けような」

トリが休み?ちゃんと俺のこと考えてくれていたとか、嬉しすぎて、一人であれこれ考えていたのが馬鹿みたいだ。

「今日はお前の言うこと何でも聞いてやる。何して欲しい?」
「じゃぁ……今日は外で食事がしたい」
「いいよ。他には?」

トリの手が俺の顔に触れてきた。そんな風にされたら変に意識して、うまく言葉が出なくなってしまうじゃないか。

「あ……とは、えーと、そんな急に言われ……んっ…」

そこまで言ったところで、キスをされ言葉を封じ込められていた。

「何勝手にっ」
「キスして欲しそうな顔してただろ?」
「なっ……っ!」

勝手に解釈すんなって言ってやりたいとこだけど、こんな真っ赤な顔で言ってみても多分逆効果で。おまけに、ちょっぴり嬉しかったりする自分もいたり。

「もっとキスしたいんだけど」
「いちいち確認すんな、バカ」

どうしていつもトリのペースに持ってかれちゃうんだろ?仕事バカで、いつも眉間に皺寄せて怒ってばっかりで、説教もいっぱいされるけど。やっぱりトリといると落ち着く。
なぁトリ、来月はどこ行こっか?今から楽しみだ。

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