世界一初恋

□桜咲く頃
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今月も何とか入稿が終わり、とは言っても…いつもと同様デッド入稿なのだが。毎度のことながら、全くと言っていい程学習能力がない吉野のマンションへ足を運んでみれば、玄関前でダラリと伸びきっていた。

「呆れた奴だな…吉野、こんな所で寝るな!寝るならベッドに行け」
「あぁ…トリ…もう無理、動けなーい。起こして…」
「甘えるな、自分で起きろ」
「やだ…」

そんな吉野のを無視し、食材の詰まったスーパーの袋を持ってさっさとキッチンへ向かって、冷蔵庫を開けた。見事なまでに空っぽで、ビールの缶が数本入っているだけだ。自分が来ない日でもちゃんと食べろと言っているのだが、コンビニで買ったと思われるカップラーメンの容器が散乱していた。ただでさえ細身なのに、これ以上痩せられたら困る。

「トーリーーぃ…」

吉野はまだ廊下に転がっているようで、更に甘えた声で俺を呼びつける。俺はお前の母親になった覚えはない、それなのに結局のところ吉野に手を差しのべてしまうのは、惚れた弱みでもあって…でも好きな相手に甘えられたり、頼られたりするのは嬉しくもある。本当に厄介な感情なのだ。

「お前いい加減にしろよ、何でそんなにだらしないんだ」

溜め息混じりでそう言えば、今回はいつもより頑張ったから、と疲労感たっぷりに返された。
何だそれは。確かに今回の出来は良かったが、毎回ベストを尽くすのは社会人として当たり前のことだと思うのだが。わざわざ「今回は」といい放つ吉野に苛立ちながらも手を差しのべてやると、今度は反応が無い。何なんだ、こいつは。

「おい、吉野?」

代わりに聞こえてきたのは、小さな寝息だけ。よく見てみれば目の下には酷いクマが出来ていた。いつから寝てないんだ?

「ったく…しょうがない奴だな」

そっと抱き上げベッドまで運んでみたが、吉野は目を開けることもなくそのまま眠り込んでいる。余程疲れているのだろう。しかし、今回はそれ程キツくはなかった筈なのだが…何でこんなことになっているんだ?俺は寝顔にキスをし、寝室を出た。

「おやすみ…」

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