世界一初恋

□もっと言って、その言葉
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仕事帰り、コンビニに向かいながらあることを思い出していた。

『雪名なんて大嫌い!』

今付き合っている恋人に向かって、思わず心にも無い言葉を吐き捨ててしまったのは、まだ記憶にも新しい3日前のこと。
あいつが「今俺だけを見てくれているなら、過去は気にしません」なんて言うもんだから、つい。
雪名は若いしモテるし、たくさんの女の子に言い寄られている。そういうのを気にしすぎて嫉妬して……頭ん中グルグルしちゃってんのはいつも俺の方で。結局、自分に自信がないのが原因。いつも余裕なんてものは1oもない。

別に嫉妬して欲しいとか、そんなんじゃないけど…「気にしない」なんて、いつも余裕な感じの雪名に、自分ばかりがいろんな感情に振り回されているのが悔しくて。少しは気にしろっての!
もしかしたら雪名を傷付けたかもしれないあの言葉。別に本気でそう思っているわけではなくて、雪名のことは大好きだし、出来ればずっとこの先だって一緒にいたいって思ってる。
や、思ってた……か。

ここで過去形になってしまっているのは、全てある男のせいだ。この元凶となった言葉を俺に投げつけたサイテーな男、今となっては思い出したくもない、雪名と付き合う前に何度か寝たことのある奴だった。
つーか名前、何だっけ?

『あいつどう考えてもストレートだろ。翔太、お前捨てられるぜ?女の方がいいに決まってんだろ。傷付く前に俺のとこに戻ってこいよ、お前の為に言ってんだ』

一瞬何を言われてるのかわからなかった。前に雪名と歩いているところを見て後をつけたらしく、雪名のバイト先まで知っているようだ。
一気に現実を突き付けられたこの偶然の再会が、ほんの5分前の話。急に怖くなって、捕まれた腕を振り切り逃げてきたのだ。もしかしたら偶然なんかじゃなかったのかもしれない。またつけられた?ストーカーかよ!
とにかくコンビニでビールとつまみだけを買って、俺は自宅マンションを目指した。

あぁ、最悪……。
何であいつにそんなこと言われなきゃならないんだ。次々と缶を空にし、アルコールが回り始めた頃、携帯が鳴った。
雪名だ……何話せばいいんだよ。とにかく今は、あいつに会ってしまったせいで動揺してるし、自分の気持ちの整理が出来ていない。
しつこいな。
続けざまに鳴り響く音に、少々うんざりしながらやり過ごす。暫くして携帯を見てみると、メールが届いていた。

『連絡下さい。ちゃんと話がしたいです。』

そんなこと言われてもさ。

雪名に捨てられる?そうだよな……女の子の方がいいよね、その方がお似合いだし。だいたい俺が好きになりさえしなければ、今頃雪名だって普通の大学生みたいに、同世代の“彼女”と楽しくお付き合いしていたに違いない。
こんなことばっかり考えてしまう自分が本当に嫌だ。付き合い始めの頃もそうだったなぁ。
もうこうゆうのは止めようって思って、一度は前向きになるのに、何かある度にまた自信なくして。
人を好きになるのって、何でこんなに苦しいんだろう。

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