世界一初恋

□10年越しのプレゼント
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絶対におかしい、避けられている気がする。俺あいつに何かしたか?幾ら考えても全く思い当たる節など無く、仕事に集中出来ずにただ苛々が募るばかり。勿論会社では、普通に会話をしているが、あくまで仕事上の話のみ。隣に住んでいるというのに、朝も帰りも、俺と時間が重なることは無かった。それも全部、律がわざとずらしているせいだ。 あからさまに避けやがって……何コソコソやってんだ?

「お疲れ様です、お先に失礼します」

一日の業務を終え、律は慌ただしく机の上を片付け始める。

「お疲れー。ねぇ、美濃と飯食いに行くけど、律っちゃんも一緒にどう?」
「あぁ、すみません。今日は急いでるんでまた今度誘って下さい」
「そっか、羽鳥は吉川先生と打ち合わせだって言うし…高野さんは?」
「悪ぃ、俺もパス」
「もしかして、二人でデート?いいなぁ俺もラブラブしてぇー」
「木佐さん、違いますからっ!じゃぁまた明日」

木佐との会話もそこそこに、でも「俺とのデート」はしっかりと完全否定して、律は身支度を整えバタバタと編集部を出て行った。確かに約束なんてものはしてないが、俺の存在を否定されたみたいで面白くない。

「高野さんフラれちゃったね」
「うるせー」

早くこれ片付けて帰るか。残りの雑務をこなし、俺も早々と編集部を出てエレベーターに乗り込んだ。それにしても、律は何であんなに急いでたのだろう?
今何をしているのか。
今何を考えているのか。
好きな物は?
好きな人は?

もう全てが気になってしまって、自分でもどうにかなってしまいそうなくらいに、頭の中が律でいっぱいになってしまう。
まぁ嫌われているわけではなさそうだけど。本当に嫌いだったら何度も抱かれたりはしないだろう。 でも肝心な言葉を、俺が一番待っている言葉を、未だにあいつの口から聞くことは叶わない。

『好きです』

そのたった一言。
素直じゃねぇーからなぁ。溜め息をつきながら、ふと通り掛かった書店を眺めていると、本棚と本棚の間に律の姿が見え隠れしている。
てっきり誰かと待ち合わせでもしているのかと思っていたが、どうやら一人のようだ。 ここで声を掛けても良かったが、逃げられても面倒なので、先にマンションに戻り確実に捕まえることにした。



「遅ぇーよ」
「た、高野さんっ、何でこんなとこに…」
「いいから中に入れろ」
「ちょっ、勝手に入らないで下さいっ」

制止する律の腕をすり抜け、俺は強引に中に入り込んだ。

「お前さ、何で俺を避けてるわけ?」
「別に…そんなことは…」
「嘘つけ。わかりやすいんだよ」

少しの沈黙のあと、律はいきなり謝り始めた。

「高野さん…ごめんなさい…」

俺はただ、避けていた理由が知りたいだけだ。

「何が?」
「あの……この前高野さんに借りた本…なんですけど…」

そこまで言うと律は下を向いてしまった。本?一体何の話だ?取り敢えず不可解な行動の原因が、俺の言動によるものでは無いらしいことに安心する。
確かに本は貸したが…それがどうしたって言うのか。

「その本を無くしてしまったみたいで……新しく購入して謝ろうと思ったんですけど…すみません、どこの書店にも無いし重版予定も無いらしいんです。本当にすみません……」

律は声を震わせながらそう言うと、深々と頭を下げた。だからあんな所に居たのか…。それに貸した時「大事にしている本だから丁寧に扱えよ」とか言ってしまった気がする。
でも実はこの本、全く同じ物を二冊持っていたりするわけで。ま、無くすのもどうかと思うけど、だからと言って怒る程のことではない。
で、…何で二冊持ってんだっけ?
俺が怒っているとでも思ったのか、律はうっすら目に涙を溜めていた。

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