スケジュール的には然程キツくなかった筈なのに、何かと理由を付けてはダラダラと先延ばしにして自分の首を締めている。 今頃はきっと部屋で伸びきって、死体化してるに違いない。 合鍵を使って勝手知った部屋に入ると、そこは仕事道具が散乱したままだった。 徹夜続きでベッドにも辿り着けずその辺に転がっているかと思えば、どうやら何とかベッドに身を沈めることは出来たようだ。 手に持ったままの食材が詰まった袋をテーブルに置き、冷蔵庫へ綺麗に収めると、真っ直ぐ寝室へと歩を進めた。 しかし、ドアノブに手を掛けた所でピタリと動きを止める。 中からキシキシと微かにスプリングの軋む音が聞こえ、そして次の瞬間、我が耳を疑った。 「あっあっ、やっ……そこっ」 「ここか?」 「あぁ……ゆうっ、ヤバッ……きもちぃ……あっ、あっ……んん──っ」 千秋と……柳瀬? この声には聞き覚えがある。と言うより寧ろ、自分だけが知るものだと信じていた。 まさか柳瀬も一緒だとは思わず、内心焦りの色が濃くなる。 出来れば疑うようなことはしたくないが、この状況ではそれも無理だ。 中で何が行われているのか……つまり、そう言うことだろう。吉野と柳瀬は……。 狼狽えながらも、何かの間違いであってくれと僅かな望みをかけ勢いよくドアを開けた。 「千秋っ!」 そこで視界に飛び込んできたのは、ベッドで俯せになった吉野に跨がる柳瀬の姿。 一瞬静まり返った部屋で、真っ先に口を開いたのは柳瀬だった。 「なーんだ、もう帰って来たのかよ。いいところだったのに」 「お前ら何やってんだ」 何がいいところ、だ。こいつは本当に油断ならない。おまけに、わざと俺の気を逆撫でるようなことばかりを言って、反応を楽しんでいるのだ。 いけ好かない奴。 顔を歪め怒りを覚えたものの、自分の想像したものとは違った状況に安堵した。 「あぁ、トリお帰りー。お前もやって貰えよ。優のマッサージ、マジきもちぃーから」 今自分がどんな声を出していたのか、自覚なんて無いのだろう。 俺の気持ちなど全く理解していない吉野は、無邪気に笑顔を向けあり得ないことを口にする。 「はぁ?その必要は無い。それより柳瀬、いつまで乗っかってんだ、早く降りろ」 「お前の管理がなってねぇーからこんなことになってんだろ?」 「俺のせいじゃない、自業自得だ」 眉根を寄せ不快感を露にした俺を見て、ようやく何かを察した吉野は慌てて身体を起こした。 「ごめんトリ。徹夜で作業してたから凝りが酷くて、俺が頼んだんだ。優サンキュ、だいぶ楽になった」 その場の険悪な空気を何とか収めようと説明し始めた吉野だが、そんなことはどうでもいい。 相手は柳瀬。マッサージとはいえ、身体を触らせた恋人に苛立ちを隠せない。 しかも、だ。 終始あんな声を出していたのかと思うと、今すぐ首根っこを掴んでベッドから引きずりおろしてやりたい気分だ。 お前はどこまで無自覚なんだ…。 |