世界一初恋

□こんな雨の日
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朝眠い目を擦りながら部屋のカーテンを引くと、眩しい朝陽の代わりにどんよりとした暗い空が視界に飛び込んできた。
身支度をし、今日もまた栄養ゼリーを口にする。もっとまともな食生活をしなければいけないとは思うけれど、どうも朝は苦手だ。食どころか自分の場合、生活そのものを何とかした方が良さそうだ。
相変わらず部屋の中は散らかっていて、さすがにこれ以上はヤバい。幸い明日は休みだから掃除をしなければ。

同じ間取りの隣の部屋、高野さんの部屋とは大違いだ。彼の部屋はいつも綺麗に片付いていて、キッチリ整理整頓されている。俺なんかより忙しい癖に何故こうも違うのだろうか。
って、何で此処で高野さんが出てくるんだ?
自然と高野さんなんかと比べていた自分に腹が立った。
玄関先で傘を手に取り、バタバタと慌ただしく家を出る。

今日は雨が降りそうだ────。





昼食を外で簡単に済ませ急いで会社に戻る頃には、ポツポツと雨が降り始めていた。

「うわーちょうど雨に降られたっ!」

そう叫びながら編集部に戻って来たのは隣の席の木佐さん。窓の外を見れば、ガラスを激しく雨が打ち付けている。

「お前傘持って出なかったのか?」
「まだ平気だと思ったんだよ、あー最悪っ」

ハンカチで頭を拭きながらぼやく木佐さんに羽鳥さんが呆れ顔で答える。この会話に、営業部から帰ってきた高野さんが割って入ってきた。

「通り雨だろ。ほら、雨が弱くなってきた」
「マジ?俺晴れ男なのに〜」
「どうでもいいけど、風邪ひくなよ?来週から忙しくなるんだから」
「わかってますよー。あーあ、またあの修羅場が待ってるかと思うと恐ろしいよ」

結局その後も、降ったり止んだりを繰り返して雨が完全に止むことはなかった。

「律っちゃんまだ帰らないの?」
「木佐さん、お疲れ様です。この資料まとめたら終わりにしますから、気にせず帰って下さい」
「じゃあ、お先に。律っちゃんは頑張り過ぎちゃうんだから、キリのいいとこで帰りなね」
「ありがとうございます、また明日」
「小野寺君、お先に」
「美濃さんお疲れ様でした」
「あー、そうそう。羽鳥は吉川先生のとこから直帰で今日はもう帰らないから、高野さんに伝えといて」
「わかりました」

木佐さんと美濃さんが出て行った後、再びパソコンのキーボードを打ちながら昔のことを思い出していた。

そう言えば昔こんな雨の日に、先輩に傘を……。
わざわざ家にもう一つ取りに帰って、嵯峨先輩に傘を渡したことがあったっけ。
好きで好きで、どうしようもない位好きで。先輩に何かしてあげたくて、喜んで欲しくて、笑って欲しくて。
ただそれだけだった。必死に姿を追いかけて、傍にいられるだけで幸せだったんだ。

先輩…────。



「………のでら」
「先輩……好き……です」
「おいっ小野寺、起きろ!」
「痛っ !!」

バコン!と突然頭に強い衝撃を受け顔を上げると、そこには腕組みをし俺を見下ろす高野さんの姿があった。

「お前何やってんの?」
「え?あ…資料を…」

あぁ……俺、いつの間にか寝てしまったのか?

「た、高野さんこそ何やってるんですかっ」
「俺は今会議が終わったんだよ」
「そうだ、羽鳥さんは吉川先生の所から直帰するそうです」
「じゃあ俺達が最後だな。帰るぞ」

あぁ、またこのパターンに陥る…もっと早く帰るべきだった。後悔しても、もう遅い。

「俺のこと待っててくれたとか?」
「そんな訳ないでしょ、ただちょっと眠ってしまっただけで」
「だっせ」
「うっ……」

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