買い忘れはないだろうか…頭をフル回転させながら次の店へと足を運ぶ。早くしないと時間がない。 仕事を早々と切り上げ、今こうして忙しなく動き回っているのには訳がある。 雪名皇。俺の今付き合っている恋人の名前だ。名前に相応しく、本人も王子並のルックスをしている。最初は顔が好きで彼の働く書店に通い詰めていた。 笑顔が眩しくいつもキラキラ輝いていて、彼目当ての女性客はかなり多い。 特定の相手を作らずフラフラ渡り歩いていたこの俺が、どこをどう間違えたのか。 こんな筈じゃなかったのに。でも今は、この幸せがいつまでも続きますように、なんて考えてしまっている自分には驚きだ。 今日はそんな彼の誕生日で、プレゼントは雪名が好きだと言っていたブランドのアクセサリーショップで既に購入済み。 何にしようかと散々迷ったのだが、ある一つのネックレスに目が留まった。 羽が刻印されているペアのプレートネックレスだ。イニシャルも入れられるとのことで、すぐにそれもお願いして先程受け取りに行ったばかり。 家に辿り着くと、座る間もなくすぐに作業に取りかかる。普段は殆ど料理なんて作らず雪名に頼りきりだけど、今日はどうしても自分が用意したかった。 オムライスなんて作ったことはないけれど、まぁ何とかなるだろう……。 慣れない作業に奮闘しながらも、それらしいものが出来上がる。形が少し歪だけれど見た目より愛情だろ、と自分を励ました。 「よし出来た!あとはサラダっと」 全てが揃うと、俺は出来上がった料理をテーブルに運び用意しておいたケーキにローソクを順番に立てていく。あとは部屋を暗くして、これに火を灯した状態で雪名を部屋に招き入れる予定だ。 「木佐さんっただいま!」 「え?ゆ、ゆきなっ?」 思ったより早い主役の登場に、当初の予定がすっかり狂ってしまい焦りまくる。全く事情を知らない雪名は合鍵を使って部屋に上がり込み、俺の前に姿を現した。 「うわーっ、どうしたんですかこれ!」 雪名にはバイトが終わったら家に来いとしか伝えていなかった。 「今日誕生日だろ?ビックリさせようと思ってたのに、お前来るの早すぎっ!」 「だって早く逢いたいから走って来たんですよ。あれ、もしかして怒ってる?」 「もういいよ。早く電気消して」 部屋の明かりが消されると、俺は一本ずつ丁寧にローソクへと火をつける。少しずつ部屋が明るくなり、雪名の笑顔がはっきりと見えた。 「雪名、誕生日おめでとう」 「ありがとうございます!」 隣に座った雪名がローソクの火を勢いよく吹き消し、部屋の電気をつける為立ち上がろうとすると肩を抱き寄せてきた。 「木佐さん大好きです」 「コラゆき…な、電気を……んっ…」 俺の言葉は雪名のキスにより封じられ、歯列を割って忍び込んできた舌に口腔をかき混ぜられる。 どちらからともなく舌を絡ませ合い、お互いに貪るようにキスをした。 いきなりの濃厚なキスにうっかり流されるところだったけれど、早くプレゼントを渡して喜ぶ顔が見たい。 慌てて電気をつけて、今日受け取ったばかりの紙袋を雪名に差し出す。 「俺の好きなやつ、覚えててくれたんですね」 当たり前だろーが。以前ショップの前を通りかかった時に、自分の好きなブランドなのだと言っていたから、名前と場所はすっかり頭にインプットされていた。 細長いケースを取り出し蓋を開ければ、キラキラと眩い笑顔を見せる。 「あれ?これって……」 どうやら小さく刻まれたアルファベットに気付いたようだ。そこにあるのはSの文字。翔太の"S"。 ペアで買ったから俺のには皇の"K"が刻まれている。 「ほら、こっちが俺の。ペアで買っちゃった」 先に身に付けていた俺は、服の胸元からプレートを取り出して雪名に見せながらそう言うと、 「マジっすか?どうしよう、スッゲー嬉しい。これならいつでも木佐さんと一緒ですね」 なんて、嬉しい反応を返してくれるからこちらとしてもプレゼントをした甲斐があるってものだ。 「凄く嬉しいんですけど、こんな高価な物いいんですか?」 「いいんだよ、年上をナメんな?誕生日くらい素直に甘えとけって」 多少親からの仕送りもあるだろうけど、まだ学生でバイト生活をしている雪名にとっては大金かもしれない。 決して安いとは言えないが、俺からしたら雪名の笑顔が見れるのなら大した金額ではなかった。 いつもなら9歳という縮めようのない歳の差がネックであれこれ悩みも尽きないのだけれど、こういう時だけは年上で良かったと思える。だからと言って物で釣るつもりなんて毛頭ない。でもコイツにだって、特別な日くらいご褒美があってもいい筈だ。 雪名は、ありがとうと言いながら俺を抱き締めようとしたけれど、その腕をスルリとかわす。 それに対して口を尖らせながら不満そうな顔をする雪名は、まるでお預けを喰らった犬みたいでちょっと笑えた。 「ほら、俺がつけてやる」 そんな雪名を笑いながら、ネックレスを受け取り首に腕を回してつけてやると、表情がパッと明るくなった。 その嬉しそうな顔に心が和む。回した腕をそのままに、俺は雪名にキスをした。 身体を離そうとすると今度は雪名に両手で顔を覆われ、再び唇が重なり合う。三度目のキスは、なかなか解放してもらえなかった。 「ゆ…きな、苦し…」 「すいません、何かもう今日は嬉しすぎて止まんない」 「たかがプレゼントぐらいで何言ってんだよ」 「木佐さんが俺の為にこうやって料理してくれたり、このローソク付きのケーキだって全てが嬉しいんです。今日は寝かせてあげられないかも」 「ばか、続きはコレ食ってからな」 最近は仕事の都合上雪名との充分な時間が取れず、逢ったとしてもどちらかの部屋で身体を求め合い、あとは眠るだけ。そんな日が続いていた。 これでは今までの奴らと何ら変わりがない。 だから雪名とは、食事をしたり他愛ないことを話したりするこんな時間も大事にしたいと思っているのだ。 だって、やっと巡り逢えた大切な人だから。 雪名、俺も大好きだよ────。 END. →あとがき。 |