世界一初恋

□Melrose
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どれくらいになるだろう、多分ここ数カ月まともに雪名とは逢っていない。別に喧嘩をしているだとか、そんなことでは全くなくて。メールや電話は今まで通り普通にしている。
ただ、雪名が忙しすぎるのだ。学業にブックスまりもでのバイト、それに加えて最近では大学の友達がバイトをしているという居酒屋まで手伝っているらしい。
そのうち倒れてしまうんじゃないかと心配するも、大丈夫だから、と辞めようとしなかった。昨日もダメ元で誘ってみたのだが、やっぱりバイトを理由に断られてしまった。明日はクリスマスだというのに…。

「もう何なんだよっ。居酒屋手伝ってる時間があるなら、少しは俺にも時間割けっての!」

苛々が収まらず思わず携帯を投げつけてしまったが、よく考えてみれば自分にも当てはまることだった。仕事が忙しく、逢うのもままならなくて、でも雪名は文句一つ言わなかったではないか。なのに俺ときたら…。
勝手なのはよくわかっている。でもやっぱり、自分と逢うことよりもバイトを優先させている雪名に腹が立った。
あいつ、何か欲しい物でもあるのかな。そもそも、その居酒屋で働いている友達というのが女で、それだけでもいい気がしない。
もしかして浮気…ってことはねぇーだろうな、女に貢いでるとか?

「まさか…な、……はぁ…」

頭の中で妄想ばかりが膨らんでしまって、どんどん嫌な自分になっていく。ネガティブな思考に陥るのはいつものこと。これも全部自信のなさからくるもので、雪名の容姿や歳の差なんかも要因となっていた。
有ること無いこと勝手に想像して、一人悶々と落ち込む自分がバカみたいだ。
一度電話越しに、バイトを増やした理由を聞いてみたことがある。その時は、ちょっと色々あってと言葉を濁されてしまった。
何が色々だ、俺には言う必要もないってことかよ!
あいつのことだから、店内での状況も安易に想像がつく。あの王子スマイルで女性客を虜にし、キャーキャー言わせているに違いない。これ以上ファンを作ってどーすんだ!
もちろん信じてないわけじゃない。でもあんな風にあからさまに隠されると、不安で押し潰されそうになってしまう。

「あ…メール」

ソファーに放り投げたままの携帯が短く鳴り、メールの受信を知らせた。それは待ちわびた雪名からのメールで、なかなか逢うことのできない今は些細なことでも嬉しい。

『明日、バイト終わりに逢えませんか?居酒屋の方はシフト入れてないので』

大学はもう休みに入っているはずだ。居酒屋の方はって、本屋はしっかり入ってんのかよ。まぁいい、これでやっと雪名に逢える!クリスマスに逢えなかったら、マジ絶交してやるとこだった。
こんなメールでウキウキしている自分は単純すぎる。実際に顔を合わせたらどうなってしまうんだろうか。

そしてクリスマス。半ば強引に仕事を終わらせてきたというのに、雪名はまだ姿を現さない。やっぱりバイトを優先させたとか?いや、焦るな俺!
取り敢えずメールを入れておこうと思い、携帯を手にしたところでインターホンが鳴り響いた。モニターで確認して急いで鍵を開けると、きっと走って来たのだろう、そこには息を切らせたサンタクロース姿の雪名が立っていた。
顔を見たら真っ先に、不満をぶちまけてやろうと思っていたのに…。それよりも先に雪名が勢いよく俺に飛びついてくる。

「木佐さん、逢いたかった !!」
「ちょっ…、ゆ…きな、苦し…」

ギュウギュウと抱き締めてくるから、言ってやりたかった言葉が何一つ出てこない。でも、もうそんなこともどうでもよくなっていた。
久々な雪名の匂い…腕の中で安心感と変な緊張感に包まれて、ドキドキと胸の鼓動が激しくなる。自分だけだと思っていたら雪名も同じらしく、心臓の音がはっきりと伝わってきた。

「お前その格好でここに来たわけ?それに身体すげー冷たい」
「今日はこれ着て仕事してたんです。遅くなってすみません」
「ここ寒いからさ、早く中に入れよ」

身体を引き剥がして、玄関から暖房の利いた部屋へと移動する。あのまま抱きつかれていたらそのまま流されてしまいそうで、それだけは嫌だった。一瞬でも浮気を疑ってしまったことは心の中で申し訳なく思いつつ、一つだけはっきりさせておきたいことがある。バイトを増やした理由、これだけは聞いておきたかった。

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