世界一初恋

□Melrose
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雪名が俺に隠し事?100年早ぇーんだよ!逢いたい気持ちを我慢してまで働こうとするなんて、それなりの理由がなければ納得がいかない。今日こそ吐かせてやろうじゃないの!
そんな思いに気付くわけもなく、雪名は長い指で俺の顔に触れてくる。そのまま押し倒してキスでもしてきそうな雰囲気に、慌てて身体を押し返した。

「ちょ、ちょっと待った」
「どうしてですか?もっと木佐さんに触れたい」
「そんなことより何でバイト増やしたんだよ、理由を話せ。この前みたいに誤魔化すなよ?ちゃんと話すまで俺に触るな!」
「えーと、それは……。今話さなきゃダメですか?」
「ダメっ!」

きっぱり言い放つと、雪名は観念したかのように溜め息を一つ零してこちらを向き直した。こんなに躊躇しているのを見るのは初めてで、聞いたこちらまで何を言われるのかドキドキしてしまう。

「一緒に…北海道へ行きたいからです」
「北海道?」

全く想像もつかなかった意外な理由に、完全に拍子抜けした。俺と旅行する為の資金稼ぎだったってことか?

「そうゆうことだったら最初から言えばいいだろ?隠す必要ないじゃん。お前が変に隠すから、こっちはいらん心配しちまっただろーが」
「ちゃんと二人分貯めてから話したかったんですよ。どうしても木佐さんを連れて行きたくて、プレゼントしたかったんです」
「二人分?自分の分くらい出すからいいよ。何ならお前の分も出してもいいし、それが嫌だって言うなら俺が立て替えておくとか」
「それじゃ意味がないんです!俺が、木佐さんを連れて行きたいんです。俺の生まれ育った街に。もっともっと知って欲しいし、そしてもっと好きになって欲しいから」
「え?」

いきなりのことでさっぱり意味がわからない。あぁそうか、雪名は北海道の出身だって言っていた。
そこに俺を連れて行きたいだとか、プレゼントするだとか、何かっこつけてんだ。
そんな風に考えてただなんて…全然知らなかった。既に頭ん中お前でいっぱいなのに、これ以上好きにさせてどうしようというのだ。
でも休みなくバイトを詰め込んで、その全てが俺の為で。いつになく真剣な雪名が急に大人びて見えて、少し頼もしい。
お前の頭ん中、どれだけ俺中心に回ってんだよ。

「それでお前が倒れたら意味ないだろ」
「全然平気っス!頑丈だけが取り柄なんで」

そう言って雪名は、満足気に笑った。
いい歳したおっさんが学生にたかってるみたいで、半分出すと言ってみるものの、自分に全て任せて欲しいと言って一歩も引かない。二人分ともなると、雪名からしたら大変な額のはずなのに。

「あ、そうだ」
「ん?まだ何かあんのかよ」

雪名は白い袋からゴソゴソと何かを取り出し始め、中から出てきたのは大きな紅色の薔薇の花束。それをこちらに差し出す姿がとても様になっている。たちまち部屋が薔薇の香りでいっぱいになった。

「まぁそんな事情なんで今日はこんな物しか用意出来なかったんですけど、木佐さんに。メリークリスマス!」
「お前…恥ずかしい奴だな」

男が薔薇の花束をもらうなんて恥ずかしくて照れくさい。でもそれ以上に、花束を持った雪名が余りにも格好よすぎて、頬が一気に赤く染まっていくのがわかった。
ヤバイ、凄く嬉しいかも。

「紅色の薔薇の花言葉って知ってます?色によって違うらしいんですよね」
「知らない」
「“死ぬほど恋い焦がれています“……まさに今の俺みたい」
「なっ……」
「木佐さん…もう触っても、いい?」

そう問いかけたくせに、俺の返事なんて待たずに抱き寄せてきた雪名。ゆっくりと口づけられて、お互いに重なった部分は少しずつ熱を帯び始める。全身痺れる様な感覚が気持ち良すぎて、もう離れられなくなっていた。

「ずっと逢いたかった…」
「黙っててゴメン、泣かないで」
「泣いて…ない。それに俺、雪名へのプレゼントなかなか決められなくて…」
「木佐さんを下さい」
「バカ…そんなのいつでもあげる」

零れ落ちそうになった涙を隠すように、雪名の胸に顔を埋める。好きすぎて、すぐに余計な心配ばかりしてしまうけれど。
昔の自分にはなかった感情…最近はこんな自分が少し可愛く思えたりもする。そう考えられるようになったのも、相手が他の誰でもない雪名だから。

恋い焦がれているのは俺も同じ────。

窓の外はいつの間にか白いものがチラついていた。聖なる夜の贈り物。
俺達は身体を重ね合い、何度も何度もお互いの熱を求め続けた。



END.

→あとがき。

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