世界一初恋

□ストロベリーキス
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吐く息は白く、冷たい空気が肌を刺すように痛い。こんな寒い冬の日、部屋にコタツがあったらどんなに幸せだろう。
ぬくぬくと暖かいコタツに足を突っ込んで、ミカンを食べる。いや、冷たくて甘いアイスも捨て固い。寒ければ寒い程、暖かい部屋で食べるアイスが格別旨く感じるのは何故だ?
なのに目の前にいるこの男は「コタツ買おうかな」なんて言おうものなら、間髪入れずに否定してくる。

「何でだよっ!」
「今回の入稿も何とか間に合ったが、デッドには変わりない。コタツなんてあったら、お前はそこに張り付いて一歩も動かないだろ?これ以上ダラダラされたら困る。絶対にダメだ」
「えー?分かんないじゃん。もしかしたら、快適過ぎて仕事がスッゲー捗るかもしれないし」
「有り得ない」
「うっ……」

冷ややかな表情でバッサリと切り捨てられたら、もう何も返す言葉がない。デッドだと言っても、ビリは間逃れたのだから正直ホッとしている。こんなこと言ったら、またトリの小言が増えるに違いない。
だいたいコイツが真面目過ぎるのだ。何に対しても手を抜くことはなく、的確に物事を遂行する。
まぁそのお陰で、俺の仕事や生活の全てが成り立っていることは確かなのだけど。
きっとトリがいなかったら、作品が雑誌に載らないかもしれないし、食事だって洗濯だって…挙げ始めたらキリがない。
昔からそういうところは変わっていなくて、今までどれ程彼の手を煩わせてきたことか。まるで母親のようだと思ってしまうけれど、そこは地雷。うっかり声に出したら大変なことになるので、ここはしっかりと口を結んでおく。

「何か反論でもあるのか?」
「……ありませんね」

かわりに一つ溜め息をつけば、トリは眉根を寄せ不機嫌さを露にした。
さすが、俺の生態をよく分かっていらっしゃる。彼の言うことは尤もで、ああは言ったものの、一度快適さを知ったら……どうなるかは分からない。あー、でもコタツで寝たら、きっと気持ちいいんだろうなぁ。
今年も無理か…それどころかこの様子では、これから先だってお許しが出ることはなさそうだ。

「取り合えず、俺は食器を片付けてくるから、お前はあの漫画の山を何とかしろ」
「はいはい、今すぐやりますよ」

入稿を終えてやっとゆっくり出来るというのに、トリは忙しない。食器なんてあとでいいのに。
仕方なく、指摘されたリビングの床に積み上げられている漫画の山を片付ける。
もっと、仕事以外の話をしたい。俺達の関係上、仕事の話が中心になってしまうのは当然のことで。でも、トリはいつ息抜きをするのだろう。こんなときぐらい、もっと楽にしてくれたらいいのに。やっと、二人きりになれたのだから。
捲り上げたシャツの袖を直しながら、家事を終えたトリがこちらにやってきた。

「お前さぁ、疲れない?」
「何が?」
「たまには、仕事行きたくないなーとか、これやんのめんどくせーなとか、サボりたくなることないわけ?」
「勿論あるさ。だからと言って後回しにしても、最終的にやらざるを得ないのなら、先にやってしまえばいいだろ?それにこの家に関して言えば、お前がもっと生活を改めてくれたら、俺の仕事も減るのだが?」
「すみません……。んーでも……俺が動くより、トリの方が綺麗で仕事が早いから任せるわ」
「何だそれ、少しは反省しろよ」
「分かってま〜す」
「相変わらず調子のいい奴だな。まぁ、全て俺が好きでやっていることだから、別に構わんが」

さっきまで顔を顰めていたくせに、結局はこう言って口の端を綻ばせながら、俺を甘やかす。
そんな好意に甘えっぱなしなのもどうかと思うけれど、でもこの関係が一番しっくりきて心地よい。それに俺の為にトリが料理を作ってくれて、そんな姿を見ているのも好きだから。

「そうだ、イチゴを買ってきたんだが食べるか?お前好きだろ?」
「えっマジ?食べたいっ!」
「ちょっと待っていろ」


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