いつもより心地よいベッドの中で、モゾモゾと動きながら寝返りを打つ。 あぁ、温かい……。身体にじわりと熱が広がり、何とも言えない優しさに包まれた。もっと感じていたくて、その熱源に摺り寄る。 妙な安心感と心地よさは何なのか、よく分からないまま身を任せながら瞼を上げた。 ぼんやりと薄暗い視界が広がる。 何だ、トリか……。 どうりで温かいわけだ。正体を知って納得すると、もう一度瞼を閉じかけて、慌てた。 げっ、最悪だ! 昨晩トリに抱かれて行為が終わったあと、疲れただの腰が痛いだのと言って、さっさと風呂に入り寝てしまったのだ。 恥ずかしさの余り口を衝いて出た言葉。トリが、ムードも色気もないってぼやくのも無理はない。 でもしょうがないではないか。こんな素直じゃない俺を、好きになったお前が悪いんだ。 あんな態度をとっておいて、次の朝にこれでは間が悪すぎる。起こさないようにそろりと身体を離すと、背を向けて寝る体勢をとった。 それなのに、先程の寝顔を思い出したら、背中が気になって完全に目が冴えてしまう。すぐ後ろにはトリが寝ていて、顔があって……もう、意識しだしたら止まらない。 どれくらい時間が経っただろう。もしかしたらほんの僅かかもしれないし、だけどとても長くも感じた。 しばらくして、トリの起きた気配を感じてホッとする。大丈夫、気付かれてない。 「起きているか?」 背後から腕が伸びてきて、身体を抱き込まれた。 「…ん……」 たった今起きた風を装い、振り返った途端、唇を塞がれてしまった。軽い目眩を覚えて、頭の中が真っ白になる。啄むようなキスを何度かすると、最後は唇を舐めとりながら、ゆっくりと離れていった。 「ちょっ、いきなり…」 しっかりと身体を抱き直されて、大きな胸にスッポリと収まる。響き渡る二人の心音。トリに触れられると、どうしようもなく胸が高鳴ってしまう。 「起きないの?」 「もう少し、このままでいたい」 甘えとも取れるそれに、悪い気はしない。何か、すげー幸せそうな顔して寝てたよなぁ。 「こうしていれば温かいだろ?」 「べ、別に寒くねぇーし」 「嘘つけ、あんな風に摺り寄ってきたくせに」 こ、こいつ、起きてやがった!! 「バカっ、ちょっと寝ぼけただけじゃん、もう〜早く起きろよ!」 クスクス笑うトリには全てバレていて、それでも素直に認めてやるのはかなり悔しい。 「嘘だよ、俺がこうしていたいだけだ」 あー、まただ。本当にそう思ってくれているのかもしれないけれど、言わせたのは自分で。 トリは大人だから、俺が素直になれないだけなのに、いつも全てを受け入れてくれる。たとえ喧嘩になったとしても、最終的に折れるのはトリの方。完全にこちらに非があったとしても、だ。 「しょ、しょうがないから、もうちょっとだけこうしててやるよ」 こんな言い方しか出来ない自分が嫌になる。本当に素直じゃない。 顔を見られないように、トリの胸に顔を埋めて背中に両腕を回した。 「どうした、起きるんじゃなかったのか?」 「気が変わったんだよ。何か文句あるかっ」 「ないけど……」 「けど、何だよ」 その先が気になって、トリの顔を見上げれば。 「いや、可愛いなと思って」 「ばっか……お前、どんだけ俺のこと好きなんだよ」 茶化したつもりが、「知りたい?」なんて真面目な顔して言うもんだから、調子が狂ってしまう。 だからトリのことを、……お前が思っている以上に好きなんだってことを、知らしめる為に今度は自分からキスを仕掛けた。突然のそれに、少々困惑気味な表情。 どうだ!俺だってやれば出来るんだよ、参ったか! そう誇らしげに思ったのが、間違いだった。 「おぃ……何勃たせてんだよ」 「お前が煽るから悪い」 「煽るって……昨日散々やっただろ!無理、絶対無理だからなっ」 「無理かどうか、身体に聞いてみようか」 「このエロ親父っ!少しは加減を知れ!!」 冗談か本気なのか。何を考えているのかさっぱり分からないけれど、珍しく声をたてて笑うトリは、とても機嫌がいいようだ。 久々に二人の休みが合った今日、こんな感じで一日が始まった。 ただ一つ分かっていること……しばらくは、腕の中から俺を解放する気はないらしい。 頑張れ、俺! 結局トリに何をされても拒めない俺は、相当こいつのことが、好きみたい。これは重症だ。 END. →あとがき |