世界一初恋

□ゼロセンチの攻防
1ページ/2ページ


いつもより心地よいベッドの中で、モゾモゾと動きながら寝返りを打つ。
あぁ、温かい……。身体にじわりと熱が広がり、何とも言えない優しさに包まれた。もっと感じていたくて、その熱源に摺り寄る。
妙な安心感と心地よさは何なのか、よく分からないまま身を任せながら瞼を上げた。
ぼんやりと薄暗い視界が広がる。
何だ、トリか……。
どうりで温かいわけだ。正体を知って納得すると、もう一度瞼を閉じかけて、慌てた。
げっ、最悪だ!

昨晩トリに抱かれて行為が終わったあと、疲れただの腰が痛いだのと言って、さっさと風呂に入り寝てしまったのだ。
恥ずかしさの余り口を衝いて出た言葉。トリが、ムードも色気もないってぼやくのも無理はない。
でもしょうがないではないか。こんな素直じゃない俺を、好きになったお前が悪いんだ。
あんな態度をとっておいて、次の朝にこれでは間が悪すぎる。起こさないようにそろりと身体を離すと、背を向けて寝る体勢をとった。
それなのに、先程の寝顔を思い出したら、背中が気になって完全に目が冴えてしまう。すぐ後ろにはトリが寝ていて、顔があって……もう、意識しだしたら止まらない。

どれくらい時間が経っただろう。もしかしたらほんの僅かかもしれないし、だけどとても長くも感じた。
しばらくして、トリの起きた気配を感じてホッとする。大丈夫、気付かれてない。

「起きているか?」

背後から腕が伸びてきて、身体を抱き込まれた。

「…ん……」

たった今起きた風を装い、振り返った途端、唇を塞がれてしまった。軽い目眩を覚えて、頭の中が真っ白になる。啄むようなキスを何度かすると、最後は唇を舐めとりながら、ゆっくりと離れていった。

「ちょっ、いきなり…」

しっかりと身体を抱き直されて、大きな胸にスッポリと収まる。響き渡る二人の心音。トリに触れられると、どうしようもなく胸が高鳴ってしまう。

「起きないの?」
「もう少し、このままでいたい」

甘えとも取れるそれに、悪い気はしない。何か、すげー幸せそうな顔して寝てたよなぁ。

「こうしていれば温かいだろ?」
「べ、別に寒くねぇーし」
「嘘つけ、あんな風に摺り寄ってきたくせに」

こ、こいつ、起きてやがった!!

「バカっ、ちょっと寝ぼけただけじゃん、もう〜早く起きろよ!」

クスクス笑うトリには全てバレていて、それでも素直に認めてやるのはかなり悔しい。

「嘘だよ、俺がこうしていたいだけだ」

あー、まただ。本当にそう思ってくれているのかもしれないけれど、言わせたのは自分で。
トリは大人だから、俺が素直になれないだけなのに、いつも全てを受け入れてくれる。たとえ喧嘩になったとしても、最終的に折れるのはトリの方。完全にこちらに非があったとしても、だ。

「しょ、しょうがないから、もうちょっとだけこうしててやるよ」

こんな言い方しか出来ない自分が嫌になる。本当に素直じゃない。
顔を見られないように、トリの胸に顔を埋めて背中に両腕を回した。

「どうした、起きるんじゃなかったのか?」
「気が変わったんだよ。何か文句あるかっ」
「ないけど……」
「けど、何だよ」

その先が気になって、トリの顔を見上げれば。

「いや、可愛いなと思って」
「ばっか……お前、どんだけ俺のこと好きなんだよ」

茶化したつもりが、「知りたい?」なんて真面目な顔して言うもんだから、調子が狂ってしまう。
だからトリのことを、……お前が思っている以上に好きなんだってことを、知らしめる為に今度は自分からキスを仕掛けた。突然のそれに、少々困惑気味な表情。
どうだ!俺だってやれば出来るんだよ、参ったか!
そう誇らしげに思ったのが、間違いだった。

「おぃ……何勃たせてんだよ」
「お前が煽るから悪い」
「煽るって……昨日散々やっただろ!無理、絶対無理だからなっ」
「無理かどうか、身体に聞いてみようか」
「このエロ親父っ!少しは加減を知れ!!」

冗談か本気なのか。何を考えているのかさっぱり分からないけれど、珍しく声をたてて笑うトリは、とても機嫌がいいようだ。
久々に二人の休みが合った今日、こんな感じで一日が始まった。
ただ一つ分かっていること……しばらくは、腕の中から俺を解放する気はないらしい。
頑張れ、俺!
結局トリに何をされても拒めない俺は、相当こいつのことが、好きみたい。これは重症だ。



END.

→あとがき

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ