ベッドに潜り込みウトウトしかけた頃、ガチャリとドアの開く音が聞こえた。 トリか?今日来るなんて言ってなかったよな、どうしたんだろう。 ぼんやりとした頭で、そんなことを考えていると、何かがぶつかるような派手な物音が響いた。 何やってんだアイツ……。 ベッドから這い出て玄関に向かえば、靴も脱がずに、その場に座り込んで項垂れているトリの姿があった。 急いで駆け寄り、背中をさすりながら顔を覗き込む。 「おい、大丈夫かよ。うわっ酒臭っ!また飲まされたのか?」 「少しだけ……」 「嘘つけっ!いくら酒に強いからって、変な飲み方するなよ。少しはセーブしろ」 どこが少しだよ、こんなになるまで飲みやがって。また高野さんと一緒だったのかもしれない。 前にもこんなことがあって、顔色が変わらないから面白がられ、しこたま飲まされたとか言っていた。 どうでもいいけど、俺のトリに何してくれてんだ?こんな風に飲ませるのはやめてもらいたい。 「とりあえず靴脱いでこっちに来いよ、明日も仕事なんだろう?」 座ったまま動かないトリを、何とかその場から連れ出し、寝室へと誘導する。素直に従って歩き出したが、まともに立っていられる状態ではなくて、身体を支えてやりながら歩く。様子もおかしかった。 「なんかあった?ほら、これ飲んで」 ベッドに座らせ、ペットボトルの水を差し出し問いかけてみても、「何もない」と言ったきり黙ったまま。そんな追い詰められた顔をしているくせに、俺には話しても意味がないってことなのか? このままでは無駄に時間が過ぎるだけ、とにかく寝かせてしまおう。そう思って、もう一度声をかけた。 「分かった、もういいから寝ちまえ」 「吉野……」 名前を呼ばれて振り返った次の瞬間、俺は物凄い力でベッドに押さえ付けられていた。ボトリと落ちたペットボトルが、床に転がって壁にあたる。 酔ってる……絶対酔ってんだろ! トリの指が頬を撫で上げ、もう片方の手はシャツの裾を捲りながら、脇腹をなぞる。身体を起こそうとしても、押さえつける力が強すぎてビクともしない。 「ちょっ……トリ?もう今日はおとなしく寝……「ちあ、き……」 飲んでいるせいもあるんだろうけど、珍しく甘えた声を漏らし、そのまま唇を押し付けられそうになって、目をぎゅっと閉じた。 「…………」 「…………」 あ…れ? てっきりキスされるのかと思っていた。でも、なかなか唇は触れてこないし、妙な空気が漂う。不思議に思いゆっくり目を開けると、そこには悲しげに顔を歪めたトリの顔があった。 今度は……何? 「……帰る」 小さな声でそう言って、トリは俺から身体を離しベッドから降りた。 「トリっ、ちょっと待てよ」 酔っぱらって人のこと押し倒しておきながら、今度はいきなり帰るって、もうさっぱり何考えてんのか分からない。 「そんな状態で無理だろ、いいから泊まってけって」 「嫌か?」 「……え?」 「………そんなに俺とするの、嫌か?」 「はぁ?何だよそれっ」 わっかんねぇ……だいたい一度や二度ではない、散々あんな恥ずかしいことだってしているのに、今更かよ! 「嫌だなんて言ったことないだろ?」 「……無理矢理抱いたから?本当は嫌なのに、拒めない?」 俺の言葉は無視され、話が勝手に進んでいく。それに今、何て言った?無理矢理……とか言わなかったか? |