世界一初恋

□全部忘れて
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ベッドに潜り込みウトウトしかけた頃、ガチャリとドアの開く音が聞こえた。
トリか?今日来るなんて言ってなかったよな、どうしたんだろう。
ぼんやりとした頭で、そんなことを考えていると、何かがぶつかるような派手な物音が響いた。
何やってんだアイツ……。
ベッドから這い出て玄関に向かえば、靴も脱がずに、その場に座り込んで項垂れているトリの姿があった。
急いで駆け寄り、背中をさすりながら顔を覗き込む。

「おい、大丈夫かよ。うわっ酒臭っ!また飲まされたのか?」
「少しだけ……」
「嘘つけっ!いくら酒に強いからって、変な飲み方するなよ。少しはセーブしろ」

どこが少しだよ、こんなになるまで飲みやがって。また高野さんと一緒だったのかもしれない。
前にもこんなことがあって、顔色が変わらないから面白がられ、しこたま飲まされたとか言っていた。
どうでもいいけど、俺のトリに何してくれてんだ?こんな風に飲ませるのはやめてもらいたい。

「とりあえず靴脱いでこっちに来いよ、明日も仕事なんだろう?」

座ったまま動かないトリを、何とかその場から連れ出し、寝室へと誘導する。素直に従って歩き出したが、まともに立っていられる状態ではなくて、身体を支えてやりながら歩く。様子もおかしかった。

「なんかあった?ほら、これ飲んで」

ベッドに座らせ、ペットボトルの水を差し出し問いかけてみても、「何もない」と言ったきり黙ったまま。そんな追い詰められた顔をしているくせに、俺には話しても意味がないってことなのか?
このままでは無駄に時間が過ぎるだけ、とにかく寝かせてしまおう。そう思って、もう一度声をかけた。

「分かった、もういいから寝ちまえ」
「吉野……」

名前を呼ばれて振り返った次の瞬間、俺は物凄い力でベッドに押さえ付けられていた。ボトリと落ちたペットボトルが、床に転がって壁にあたる。
酔ってる……絶対酔ってんだろ!
トリの指が頬を撫で上げ、もう片方の手はシャツの裾を捲りながら、脇腹をなぞる。身体を起こそうとしても、押さえつける力が強すぎてビクともしない。

「ちょっ……トリ?もう今日はおとなしく寝……「ちあ、き……」

飲んでいるせいもあるんだろうけど、珍しく甘えた声を漏らし、そのまま唇を押し付けられそうになって、目をぎゅっと閉じた。

「…………」
「…………」

あ…れ?
てっきりキスされるのかと思っていた。でも、なかなか唇は触れてこないし、妙な空気が漂う。不思議に思いゆっくり目を開けると、そこには悲しげに顔を歪めたトリの顔があった。
今度は……何?

「……帰る」

小さな声でそう言って、トリは俺から身体を離しベッドから降りた。

「トリっ、ちょっと待てよ」

酔っぱらって人のこと押し倒しておきながら、今度はいきなり帰るって、もうさっぱり何考えてんのか分からない。

「そんな状態で無理だろ、いいから泊まってけって」
「嫌か?」
「……え?」
「………そんなに俺とするの、嫌か?」
「はぁ?何だよそれっ」

わっかんねぇ……だいたい一度や二度ではない、散々あんな恥ずかしいことだってしているのに、今更かよ!

「嫌だなんて言ったことないだろ?」
「……無理矢理抱いたから?本当は嫌なのに、拒めない?」

俺の言葉は無視され、話が勝手に進んでいく。それに今、何て言った?無理矢理……とか言わなかったか?

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