毎日遅くまで働いて、この歳にもなると疲労はそう簡単に回復してくれない。 今は校了に向けて大詰作業、明日は徹夜になるだろうから、今日はもう無理矢理帰ってきてしまった。すでに身体が悲鳴をあげ、身心共にボロボロの状態。 雪名で癒されたいところだけれど、あいつもバイトと課題に追われて忙しそうだ。今日だって決して早い時間ではないし、これから連絡を取るのは気が引ける。ならば、早く帰って寝てしまった方がいい。 校了明けまでお預けか……。 溜め息をつきながら、足早に家路を急ぐ。マンションに着くと部屋の窓から灯りが漏れていることに気付き、慌ててエレベーターに乗り込んだ。 ポケットから鍵を取り出しドアを開けると、見慣れた大きなスニーカーがきちんと揃えて置いてあった。 約束もしてないのにどうして? 「お帰りなさい!お仕事お疲れさまっス」 「来てたんだ。悪い、遅くなった」 「いえ、顔を見たくて俺が勝手に来たんです」 ふわりと優しく微笑んで抱き付いてくるから、不覚にも鼓動が少し早くなってしまった。 俺も逢いたかった……そう素直に言えばいいのに、歳上なのだからと変なプライドが邪魔をして、平静を装ってしまうのは悪い癖。 「おい、苦しい……から、も、離せ」 ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる雪名を咎めたものの、こんな行為だって本当は凄く嬉しくて堪らない。 あぁ、やっぱりこの顔癒される……なんて頭の中では考える。 一度拘束が緩み、離れかけた身体が再び広い胸に引き寄せられた。 「雪名?」 「木佐さん…………浮気するなんて酷いっ」 雪名は俺の髪を指で掬いながら、不穏な言葉を紡いだ。 「はぁ?お前何言って……そんなことするわけ……」 帰って早々、いきなりの浮気発言に反論しかけたのだが、ふと思い当たる節があったことを思い出す。 勿論どこぞの奴といかがわしい行為をしたとか、決してそういったことではない。と言うか、雪名がいるのにあり得ない。もう昔の自分とは違うのだ。 「たまたまだよ、別にいいだろ?一回くらいっ」 「ダメッ!俺、スッゲェー嬉しかったんですよ?」 「ちょうど切れちまったんだからしょうがないだろ。いちいちお前は大袈裟なんだよ」 まだ付き合い始めの頃、一週間程お泊まり会なるものをしたのだが。とは言っても、勝手に雪名が押しかけて来ただけなんだけれど。 その時に使っているシャンプーが同じだということが判明して、凄く喜んでいたような。それが今、たまたまストックがなくて、取り敢えず何かで貰った試供品を使ったのだ。 昨日は疲れてそのまま寝てしまった為、朝シャワーを浴びた。 それにしても、洗いたてでもないのによく気付いたなと変に感心してしまう。 「大袈裟じゃないですっ!だっていつもと違う匂いがするし」 「はいはい、もう分かったから。だからって、浮気呼ばわりは酷くね?」 「木佐さんとお揃いってだけで、俺幸せなんですよ。これからいっぱいお揃いの物増やしましょうね」 他愛ないことで喜ぶ雪名が、何だか凄く可愛く思えて。でもそれは俺も同じだってこと、分かってるだろうか。 「木佐さん、大好き」 俺だってお前が好き、大好きだよ。 そう心で呟いてもやっぱり恥ずかしくて視線を逸らすと、顔を覗き込まれてしまった。 素直に言えないから、変わりに額をコツリとくっつけてキスをする。 疲れている筈なのに逢えば身体を重ねて、求め合って、でもそれとこれとは別なのかもしれない。 「あっ……、ゆ、きな……も、イク……」 「いいよ木佐さん、一緒に……」 |