世界一初恋 2

□どんな姿だって
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グッタリと力が抜けた身体は逞しい腕に抱き締められ、秘かに幸せなこの時間。雪名の体温と匂いに包まれていると不思議と心が安らいで、この時ばかりは疲れなんかも忘れてしまう。

「大丈夫ですか?すみません、校了前で疲れてるのに」
「そんなこと気にしなくていい」

頭を撫でてくれる大きな手が心地よすぎて、瞼は半分閉じかけていた。雪名は大学での話をし始めたけれど、睡魔に襲われた俺は微睡みながら相槌を打つ。そんな状態が暫く続いていた。

「────でね、流れでつい木佐さんの話をしちゃったんですよ。そしたらあいつが、そんなに可愛いなら逢ってみたいって……だから今度……」
「……ふぅん、そうなんだ……」

……話したんだ……そっか、うん…………。ン?今、何て?誰が俺に逢いたいって?
限りなく夢の中状態だった俺は、睡魔はどこへやら、今の言葉で一気に覚醒した。

「てか、大学生がこんなオッサンに逢ってどうすんだよ」
「あ、でも協力してくれるって言うしその方が……イテッ!」
「協力って何の話だ?」

いまいち話の流れが理解出来ず、思いっきり雪名の頭をはたいて睨み付けるも、当の本人は「大丈夫ですよ」なんて呑気に笑って見せた。
どこが大丈夫なんだ!だいたい雪名の友達とじゃ話が合うわけがないし、俺は見せ物じゃねーぞ。それに男なんだから、可愛いっていう前フリは余計だ。

「勝手に決めんなよ、俺のことはほっとけ」
「ちょっと木佐さん落着いて」
「お前が変なこと言うからだろ」
「えーと、逢いたがってるのは、学祭の時モデル頼んできた小嶋里緒なんですけど」

迂闊だ、勝手に男だと思っていた。
その子って確か、元カノだって言ってなかったか?最悪だ、マジこいつの考えていることが理解出来ねぇ。
今はただの友達だと言われても大学は同じだし、やっぱり不安だ。
普段友達とどんな会話をし、何を考え過ごしているかなど、俺には知り得ないこと。そんな姿を間近で見ることができる彼女が羨ましい。
や、問題はそこじゃない!

「前にも言いましたけど、今はホントにただの友達なんで。間違ってもどうこうなることないから……木佐さん、聞いてます?」
「何勝手に話進めてんだよ」
「ファッションショーの時、舞台でキスした相手が今付き合ってる人なのかって、しつこく付きまとわれてつい……でも木佐さんは本当に俺の恋人なんだから問題ないです」
「ついって、お前なぁ。それって絶対女だと思われてるよな?だったら尚更……」
「大丈夫ですよ。さすがに相手が男だって言ったらビックリされましたけど」
「雪名っ !? 」

こいつ、今とんでもないことをサラッと言いやがった !!
まさか男と付き合っていることを隠さず話すなんて、思ってもみなかった。

「里緒なら平気ですよ。面白がって誰かに話したりするような奴じゃないんで」

あまりの衝撃に固まっていると、雪名はそう付け加えてきたのだが、全く話にならない。

「そうじゃねぇだろ!」

あぁぁぁ、どうすんだ?
焦る俺とは対称的に、雪名は「校了明けの日曜、9時にうちへ来て下さいね」と悠長なことを言って、終電がなくなるからと帰ってしまった。
人の話を聞けっての!

「マジかよ……」

もともとこの道に引きずり込んでしまったのは俺の方だ。当たり前の話だが雪名にとって俺は初めての男で、罪悪感がないわけではない。
でも、気が付けばあとに引けないくらい好きになってしまっていた。そして雪名も好きだと言ってくれた。
だからって、男と付き合っていると自ら公表する奴がどこにいる!
あいつは何も分かっていない。
まあ向こうが勝手に逢いたいと言ってるだけで、こっちが相手にしなければそのうち諦めるだろう。
考えれば考える程疲労感が増していき、俺は布団を頭から被るとそのまま目を閉じた。

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