「おい、ちょっと付き合え」 「え?……俺、ですか?」 小野寺は辺りを見回しながら自分しかいないのを確認して、俺にそう言った。 いちいちビクつきやがって。……当然か、今までのこいつへの態度ときたら政宗のこともあって、随分とキツく当たってしまっていた。 「お前しかいねぇーだろ、小野寺」 『俺の恋愛にお前は関係ない』とバッサリ切り捨てられたお陰で、それこそ色々あったのだが。新たに大切だと思える人が出来た。 こんなことになろうとは、思ってもみなかった。別に後悔しているわけではない、ただ、自分に驚いているだけだ。 それなのに、こいつらときたらどうだ?お互い想い合ってるくせに、未だに付き合っていないとか一体どうなってんだ。 「行くぞ、もたもたするな」 「は、はいっ」 かなり強引ではあるが、帰り際のエレベーターでたまたま居合わせた小野寺を、丁度いい機会だと思い連れ出すことにした。 別に飲みに行かなくても話しさえ出来ればいいのだが、内容が内容なだけに、会社では気が引ける。それに酒が入った方が、小野寺から多少突っ込んだ話が聞けるかもしれないと思ったのだ。この時までは。 個室のある適当な店に入り、飲み始めること30分。最初は俺の前でガチガチに緊張していた小野寺だったが、アルコールが回り始めると豹変した。 まさか、絡み酒愚痴派だったとは────。 「らからぁ、あの人酷いんれすって。俺がぁヤダッて言ってんのにぃ、……ヒック、無理やりらく(抱く)から〜」 「高野からは、まだ付き合っていないと聞いてるんだが」 「そうれすよ、これってセクハラれすよねぇ?隊長っあいつを懲らしめてくらはいっ!」 おいおい、隊長って俺のことか?どんな設定だよ!ってか、コイツめんどくせー。 「じゃ何か?付き合ってもねぇのに、やることはしっかりやってるってことか?」 「あー?らからぁ、あの人が勝手にぃ……俺はぁ、セックスフレンドじゃねぇー !!」 いくら個室だからとはいえ、そんな単語を大声で叫ばれたら堪らない。 「おい、分かったからちょっと落ち着け。お前、俺が聞いたらハッキリ言ったよな?高野のこと好きなんだろ?」 「……はい……嘘じゃない、です」 「だったら、何も問題ねぇだろうが。少しはあいつの身にもなれよ」 「高野さん、何か……言ってました?」 「まあ色々とな」 「そうですか……」 核心に触れた途端、さっきまでの回らない呂律が嘘のように、勢いはすっかりなくなってしまっていた。急にしおらしくなった小野寺は、下を向いたまま顔を上げようとはしない。 政宗と話したのはたまたまだった。先週帰りが遅くなった日に、もう誰もいないかもしれないと思いつつ資料を持って編集部を覗いてみたら、静まり返った部屋に政宗だけが居残っていたのだ。 疲れのせいもあっただろうが、何となく落ち込んでいる気もして少し話した。 『その後、あいつとは上手くやってんのか?』 『別に……何も変わんねぇよ。恋愛って難しいよな、思い通りにいかない』 『は?でも付き合ってんだろ?』 『いや、まだ。俺が近付けば近付くほど拒否られてる気がする』 『お前らバカだろ、見ててイライラする』 『急かす俺が悪いんだろうけど……誰にも取られたくねぇから、どうしても焦っちまう』 そう言っていた政宗は、どこか寂しげに見えた。 |